2019年5月14日②

第9回サンクトペテルブルク・国際リーガルフォーラムに参加して来ました。

本年度も、5月14日~同17日まで、サンクトペテルブルクにて国際リーガルフォーラム(以下「サンクト・フォーラム」といいます。)が開催されました。
日露法律家協会からも、川村明共同議長を筆頭に、多くの協会会員が参加して参りました。

《サンクトペテルブルク・リーガルフォーラム会場(エルミタージュ美術館前広場)》

毎年5月に開催されるサンクト・フォーラムは、ロシア連邦司法省が主催して2011年5月を第1回目として開催され、早いもので、本年度(2019年)で9回目の開催となります。
参加者数は毎年増加し、本年度は、124か国から計5040名の参加を得たとのことです。

《毎年増加するフォーラム参加者数・参加国等(フォーラムウェブサイトより:https://spblegalforum.com/ru/About_Forum)》
《リーガル・フォーラムのプログラム冊子(ロシア語版、英語版)等》
《プログラム冊子ーフォーラム組織委員会責任者でもあるアレクサンドル・コノヴァロフ司法大臣からのご挨拶文》
《プログラム冊子ーフォーラム会場であるエルミタージュ美術館と旧参謀本部建物の案内図》

5月14日午前中は、サンクトペテルブルク国立大学を訪問して参りました。そのご報告は2019年5月14日①記事『サンクトペテルブルク国立大学を訪問しました。』をご参照くださいませ。

本年度のサンクト・フォーラムも、同14日午後6時から、世界的に著名なサンクトペテルブルク・フィルハーモニア劇場大ホール(Санкт-Петербургская филармония, Большой зал)にて開会レセプションが行われました。

《開会セレモニーで第9回リーガルフォーラムの開会を宣言するアレクサンドル・コノヴァロフ司法大臣》
《開会レセプションでは1500人収容の大ホールが満席となっていました》

その後、第2回リーガル・アワードの授賞式典に移りました。
このリーガル・アワードは、法学研究分野における発展に寄与貢献する論文を執筆した候補者について、世界の各大学から推薦を受け、サンクトペテルブルク・リーガルフォーラムの受賞者選考委員会が最終選考した研究者1名に対して授与される賞です。選考委員会では、昨年は日露法律家協会の顧問である小島武司教授(民事訴訟法)が審査委員をつとめ、本年度も、当協会の川村明共同議長が審査委員をつとめられました。

《リーガル・アワードの受賞者選考委員会の皆様ー真ん中やや右に川村明共同議長》

本年度は、英国オックスフォード大学教授のJeremias Prassel博士が執筆した労働法に関する研究論文“People as Service”に対して授与されました。

《写真は翌15日にメドベージェフ首相から記念品を授与されるJeremias Prassel博士の様子》

その後、カルチャープログラムに移り、世界的に著名なピアノ演奏家ボリス・ベロゾフスキー氏によるラフマニノフのソナタ2番等の演奏が披露されました。

《世界的に著名なピアノ演奏家ボリス・ベレゾフスキー氏のラフマニノフ・ソナタの演奏》
《同上》
《開会レセプション終了後の皆様の様子ー左から右へ南純、佐藤史人、小川晶露、川村明、新島由未子、長友隆典(何れも敬称略)》
《ペテルブルクは緯度が高いため午後9時をまわっても明るいー写真中央は血の上の救世主教会(Спас на Крови)》

その後のカクテル・レセプションにて、中野由紀子事務次長(弁護士)も合流しました。これにて、翌15日に予定される第4回カウンシル・ミーティングの日本側の主要メンバーも揃いました。

カウンシル・ミーティングの様子は、次の記事『2019年5月15日第4回カウンシル・ミーティングが開かれました。』にてご報告いたします。

皆さま、引き続き宜しくお願いいたします(文責小川)。

 

2019年5月14日①

サンクトペテルブルク国立大学を訪問しました。

本年度も、5月14日~同17日まで、サンクトペテルブルクにて国際リーガルフォーラム(以下「サンクト・フォーラム」といいます。)が開催されましたが、日露法律家協会からも、川村明共同議長を筆頭に、多くの協会会員が参加して参りました。
毎年5月に開催されるサンクト・フォーラムは、ロシア連邦司法省が主催して2011年5月を第1回目として開催され、早いもので、本年度(2019年)で9回目の開催となります。
参加者数は毎年増加し、本年度は、124か国から計5040名の参加を得たとのことです。

《リーガルフォーラム会場(エルミタージュ美術館前広場)》

正式な開催レセプションは、2019年5月14日の午後6時からショスタコーヴィチ・アカデミック・フィルハーモニア劇場で開催されましたが、同日午前に、ロシア法の佐藤史人教授(名古屋大学)を通じて、サンクトペテルブルク国立大学法学部に招待されました。

《サンクトペテルブルク国立大学法学部前(南純弁護士(左)、佐藤史人教授(右)》

サンクトペテルブルク国立大学(Санкт-Петербургский государственный университет、略称「СПбГУ」)は、ロシア・サンクトペテルブルクにある公立の大学で、1724年、ピョートル大帝によって帝国科学アカデミー(現在のロシア科学アカデミー)として設立されたロシア最古の大学です。モスクワ国立大学と並ぶロシアの名門大学で、特に、法学教育ではモスクワ大学を凌ぐと言われており、現ロシア連邦司法大臣のアレクサンドル・コノヴァロフ様や、サンクト・リーガルフォーラムを作ったエレーナ・ボリセンコ様(ガスプロム銀行副会長、前司法副大臣)、また、ドミートリ―・メドベージェフ首相やウラディミール・プーチン大統領の出身校としても著名です。

大学内に入ると、サンクト・フォーラムに併せて、学生国際リーガルフォーラム( МЕЖДУНАРОДНЫЙ МОЛОДЁЖНЫЙ ЮРИДИЧЕСКИЙ ФОРУМ)が開催されており、その中で、日本法を勉強するロシア法学部生に対するセッションが設けられていました。(セッション名:Круглый стол “Права Японии”(円卓会議「日本法」))

《セッション開始前の訪問者記念撮影、最右は今回初参加の新島由未子 弁護士》

日本法セッションはアンナ・グリシェンコ教授とイリヤ・ワシリエフ(Илья Васильев)教授をモデレータとして、集まったロシア法学部生約25名に対し、まず、佐藤史人教授が基調講演を行なった後、当協会も日本法を紹介する講義を行いました。

《日本法セッションでまず基調講演を行なう佐藤史人教授(ロシア法)》
《日本法セッションの様子:長い歴史と伝統を感じさせる重厚感あふれる来賓室で開催されました》

引き続き、小川晶露事務局長から日本の裁判制度についての講義、長隆典事務次長から北海道を中心とした日露の弁護士間交流の紹介がありました。

《日露の弁護士間交流を北海道を中心として日本を紹介する長友隆典弁護士《右上》》
《流暢なロシア語で挨拶される南純弁護士》

その後、ペテルブルク大学の学生さんの方からも、3名の方が日本法に関する研究報告を行いました。発表内容は、①日本との比較におけるメディアの表現の自由(“Структура права на свободу слова в С редствах Массовой Информации в Японии: в сравнении с Россией”)(ロシア法学部生Алиса Кайденкоさんの研究発表)だったり、②日本のADRとしての国際調停(ロシア法学部生Яна АнтоноваさんとЕкатерина Петроваさんとの共同研究発表)だったり、③日本国憲法第9条(ロシア法学部生Анастасия Здроговаさんの研究発表)だったりと、何れも私たち日本人にとっても非常に難しいテーマばかりでしたが、それにも拘わらず、きちんと調査をして賛成・反対の意見を述べる学生さん達の能力の高さに、大変、驚かされました。

《ロシア法学部生Алиса Кайденкоさんからの研究発表「ロシア国との比較における日本国のメディアと表現の自由の構造」“Структура права на свободу слова в С редствах Массовой Информации в Японии: в сравнении с Россией”》

上記はペテルブルク大学学生さん発表の様子ですが、左から右に順番に、Яна Антоноваさん、Алиса Кайденкоさん(発表中)、Александра Медведеваさん、そして、Мария Калининаさんになります。

《ロシア法学部生Яна АнтоноваさんとЕкатерина Петроваさんからの共同研究発表「日本国のADRとして調停」》
《日本国憲法第9条についてご発表されるНастя здроговаさん》
《最後に講評を行うアンナ・グリツェンコ教授(右側)、イリヤ・ワシリエフ教授(左側)》

約1時間30分の日本法セッションも、あっという間に終わってしまい、最後は、皆さまで記念撮影を行いました。

《集合写真の様子》

その後は、同日午後に、アレクサンドル・コノヴァロフ司法大臣が大学を訪問されて、学内大ホールで開催された記念式典で基調講演をされました。

《アレクサンドル・コノヴァロフ司法大臣による学内記念式典の基調講演》

サンクトぺテルブルク国立大学にも、これほど多くの学生の皆さまが日本法に興味を持って下さり、研究活動をして下さっていることに、私共、日本の法律家としても、大変感激いたしました。
当協会としましては、今後も微力ではありますが、ロシアの法学部生の皆様の研究教育活動を支援して参りたいと考えておりますので、どうぞ、宜しくお願い申し上げます。

最後になりましたが、当協会を温かく迎えて下さったサンクトペテルブルク国立大学のアンナ・グリツェンコ教授、イリヤ・ワシリエフ教授、セルゲイ・ベローフ法学部学長には心より感謝申し上げます。誠に有り難うございました(文責小川)。

 

2018年11月12日

日本対外文化協会様の第162回研究会の講師を担当させて頂きました。

  2018年11月12日、当協会の川村明議長、小川晶露事務局長、中野由紀子事務次長の3名にて東海大学の日本対外文化協会(ロシア語表記:Японская Ассоциация Культурных связей с зарубежными странами、英語表記:Japan Cultural Association)様を訪問させて頂き、『日ロ法律家協会の活動紹介と、近時、注目されるロシア連邦最高裁2017年1月30日決定』との演題にて、第162回研究会の講師を担当させて頂きました。

  日本対外文化協会(略称・対文協)は、1966年に、故松前重義博士(前東海大学総長)によって創設された大変歴史ある国際友好団体になります。現在は、ロシア科学アカデミーとの間で「学術交流協定」を結んでいる他、モスクワ大学、サンクトペテルブルク大学との交流協定も結び、研修生の交換等も行うなど、日露友好のために積極的に活動されていらっしゃいます。今回の研究会は既に162回を数えるとのことであり、参加者や講演者の皆様も、元駐ロ日本大使様、新聞社様元ロシア局長、モスクワ大学や科学アカデミーの学長や教授の先生方などが参加していらっしゃる大変著名な研究会になります。

《日本対外文化協会第162回研究会における当協会発表の様子》

  研究会では、冒頭で、当時、川村明議長が国際法曹協会(IBA)の会長をしていた頃である2011年に、ロシア連邦でサンクトペテルブルク・国際リーガルフォーラムを創立した経緯や、2017年にはアレクサンドル・コノヴァロフ・ロシア連邦司法大臣のお立会いの下、エレーナ・ボリセンコ氏(ロシア連邦前副大臣、現ガスプロム銀行副会長)と共同にて、当協会を設立した経緯等について報告されました。特に、ロシアでも、国際水準の『法の支配』を確立するために様々な努力が行われており、この『法の支配』を日露法律家で共有することが安倍総理が進める日露経済協力を推進する道であることを付言させて頂きました。

《川村明議長のスピーチの模様(右)、サポートする中野由紀子事務次長(左)、小川晶露事務局長(中央)》

  つづいて、中野由紀子事務次長からは、上記のサンクトペテルブルク国際リーガル・フォーラムについて補足させて頂き、①同フォーラムが、英米を中心とするアングロサクソン系の世界法曹協会(IBA)や旧フランス系諸国を中心とする世界弁護士連盟(UIA)と比肩するような、世界水準の法律家大会とすることを目指して創設されたと理解される設立経緯や、②世界各国の裁判官や弁護士など法律の研究者が参加したり、各国の弁護士会からも会長レベルが来ること、③同フォーラムはロシア政府が完全にバックアップして、毎年、開催される時には、内務省、外務省、法務省、連邦保安局などすべて受け入れ態勢を整えるようにとのロシア大統領令が出ること、その結果、④設立当初の2011年にはたった757人しか参加していなかったのに、2年目から2000人を超えて、2014年には3000人を超え、2017年からは4000人を突破、本年度は4500名、合計90ヵ国から参加するようになったこと等の報告がありました。
  さらに、特筆すべきは、⑤本年度からPrivate Law prize、サンクトペテルブルク国際リーガルフォーラムの私法賞という賞を創設して、これを司法分野のノーベル賞にしたいという意気込みを持っているようであること、⑥審査委員は世界各国の著名な法学者研究者などで構成されており、日本からはお二人、中央大学の名誉教授でいらっしゃいます小島武司先生、それから川村明共同議長も審査委員会のメンバーに入っていること等をご報告させて頂きました。

  引き続き、小川晶露事務局長の方から、本日の主題である、『近時、注目されるロシア連邦最高裁2017年1月30日決定』についてご報告させて頂きました。同最高裁決定の事案であるマルゴ水産事件につきましては、当協会の記念すべき第1回研究会のテーマでもありましたので、詳しくは、同研究会の報告をご参照下さいませ

  概略につきましてご報告させて頂きますと、この事案では、日本国の札幌地方裁判所稚内支部がロシア国ティナール社に対して命じた4億円余りの支払いを内容とする確定判決が、ロシア国の裁判所において、どのように取り扱われるかが注目されました。
  ロシア国の第一審(州地方)、第二審(管区控訴審)の各裁判所は、外国仲裁判断の承認・執行に関する国際条約であるいわゆるニューヨーク条約を根拠に、ロシア商事手続法第241条の要件である『国際条約』があるとして、外国(=日本国)判決のロシア国内での承認と執行を認めました。

  そして、ロシア連邦最高裁判所2017年1月30日決定においても、(上記の下級審とは異なりますが)ロシアはヨーロッパ人権条約という『国際条約』に加盟しているとして、やはり、ロシア商事手続法第241条の適用を認め、上記の稚内の裁判所が出した約4億円の支払いを命じる日本国判決について、ロシア国内での承認と執行を認めました。

《小川晶露事務局長からのロシア連邦最高裁決定のご報告》

  上記のロシア連邦最高裁決定は、①下級審(第一審、第二審)の判断において仲裁と裁判を区別しない誤りを正面から認め、これを是正したものであること、②外国判決である日本国の判決も、国際条約ないし国際礼譲等を理由に、自国での承認執行を認めたこと、以上①②の各点において、ロシア国の内外における『法の支配』の実現に寄与する重要な意義を有すると言えるでしょう。
  さらに、③ロシア国裁判所が、外国である日本国裁判所判決の承認・執行を認めたということは〔アウトバウンド〕、日本国は相互主義をとっていますので(日本国民事訴訟法118条)、今後は、ロシア国裁判所の判決に対して、日本国裁判所が日本国内での承認執行を認める可能性が出てきた点において〔インバウンド〕、非常に注目すべき最高裁決定ということが出来ます。(詳しくは、当協会の第1回研究会報告をご参照いただけますと深甚です。)

※なお、本ウェブサイトで公開される内容は、あくまでロシア法研究会で交わされた議論の概略を報告したに過ぎません。掲載内容の正確性や事実の真実性を保証するものではございませんので、ご理解いただきたくお願い申し上げます。

  当協会は、この度、日本対外文化協会さまの研究会に初めて参加させて頂きまして、研究会が長い歴史と伝統を有するものであること、そして、ロシアに関わりのある経験豊かな方が、大変多く参加されていることを知りました。
また、研究会での発表にあたり、日本対外文化協会の渡邉さま、工藤さま、田牧さま、その他、多くの皆様に大変お世話になりました。つつしんで御礼申し上げます。

  私ども日露法律家協会では、今後も、日本とロシアの法律家が互いに協力し合いながら、日露交流と国境を越えた『法の支配』の実現に努めて参りたいと存じます。今後とも引き続き、ご指導とご支援を賜りたく宜しくお願い申し上げます(文責:小川)。

 

2018年9月17日

ロシア国際仲裁所(Russian Arbitration Center)ユジノサハリンスク支所開設記念セミナー出席報告
             ご報告:
弁護士 長 友 隆 典 

2018年9月17日現地時間午後2時からで新たロシア仲裁センター(Russian Arbitration Center)ユジノサハリンスク支所(Арбитражное учреждение в Южно-Сахалинске)がロシアサハリン州ユジノサハリンスクで開設されたことを記念しまして,記念セミナーが開催されました。この記念セミナーには,日露法律家協会から川村明会長,田中幹夫弁護士及び長友隆典弁護士が出席しましたので,以下のとおり報告いたします。

2018年9月16日深夜,川村明会長及び長友がユジノサハリンスク空港に到着しました。ユジノサハリンスク空港では,ロシア仲裁センターのアンドレイ・ゴルレンコ所長(Andrey Gorlenko)とサハリン州弁護士会所属のイワン・ショカレフ弁護士(Ivan Shokarev)が出迎えに来て頂きました。当日は深夜ということもあり,そのままホテルに移動し,翌日の記念セミナーに備えました。

翌日17日は午前11時に先にユジノサハリンスクに到着していた田中弁護士と合流し,ショカレフ弁護士の事務所に所属する弁護士にユジノサハリンスク市内を案内していただき,その後,記念セミナー会場であるユジノサハリンスクの中心部にある日本総領事なども入居する「北海道センタービル」付属の会場に移動しました(下記写真、中央は長友隆典事務次長)。

《ユジノサハリンスクの『北海道センタービル』と長友隆典事務次長》

会場では既にセミナーの準備整っており,ロシア仲裁センターからはゴルレンコ所長のみでなく,ウラジオストク支部エレナ・イスマジロバ氏及びカムチャッカ支部からアンナ・キセレバ氏も応援に来ており,ロシア仲裁センターの力の入れ方が伝わりました。サハリン州の弁護士も30人ほどが参加し,小規模な弁護士会であるにも関わらず関心の高さがうかがわれました。

《アンドレイ・ゴルレンコ・ロシア仲裁協会代表(左)と当協会議長の川村明弁護士(右)》

開会冒頭のゴルレンコ所長及びサハリン弁護士会マキシム・ベリャニン会長(Maxim Belyanin)の挨拶に引き続き,来賓でもある川村明会長が日本仲裁人協会の理事長として挨拶を行いました。ゴルレンコ所長からはロシアにおける仲裁所の重要性が高まってきていること,サハリンを含む極東地域においても仲裁所はロシア国内紛争のみならず日本や周辺国との法的紛争の解決に約立つことが丁寧に説明されました。川村明会長からのご挨拶の要旨は以下のとおりです。

ロシア仲裁センターユジノサハリンスク支所の開設,おめでとうございます。
日本仲裁人協会も,今年国際紛争解決センターを大阪に,そして,国際調停センターを京都に開設しました。更に,来年度には最新の国際仲裁センターを東京に開設する準備を進めています。
今や,小さな宗谷海峡を挟んで, サハリンと日本の両岸に,新しい国際商事紛争解決センターが発足するわけです。これは歴史的な出来事だと言わなければなりません。
ロシアのプーチン大統領と日本の安倍総理がウラジオストクで会談し,極東地域の経済開発のための両国の協力関係の強化を,改めて確認しあったということであります。ロシアと日本の経済協力の発展と平和な交流を推進するためには,国境を越えた法的紛争解決のシステム,国際仲裁の整備が不可欠です。私は,ロシア仲裁センターと日本仲裁人協会が協力して,極東・アジア地域の皆様に最適の紛争解決システムを提供できるようにならなければならないと考えます。
そのためにも,私は,この機会をお借りして,競合よりも協調,孤立よりも共同を呼びかけたいと思います。
改めまして,ロシア仲裁センターユジノサハリンスク支所の開設,おめでとうございます。ボリショエ・スパシーバ!

続いて,田中弁護士から国際間の裁判における執行の問題について,長友弁護士からは北海道とサハリン経済における仲裁の重要性について基調講演が行われました。

《記念セミナーではアンドレイ・ゴーレンコ・ロシア仲裁協会代表(最右)からご挨拶があり、その後、田中幹夫弁護士(最左)からもご発表がありました》

ロシア側からもペヴゼンコ・ロマン氏(Bevzenko Roman)及びスミルノワ・エカテリーナ氏(Ekaterina Smirnova)から仲裁所の重要性等について講演があり,これらに対して,サハリン州弁護士からも活発な質問がなされ,かなり充実した本格的なセミナーとなりました。さらに,このセミナーと合わせて,ロシア仲裁センターの上部組織であるロシア現代仲裁機関とサハリン州政府の友好協定締結についての署名式も行われました。

《記念セミナーが終了した直後の様子~очень теплая и дружественная атмосфера~》

なお,このロシア仲裁センターユジノサハリンスク支部開設及びセミナーについては地元のマスメディアでも,川村明会長の写真と共に川村明会長のあいさつ等が紹介されています。ご興味がある方は以下のリンクから参照してください。
2018年9月17日 Sakhalin.info
В Южно-Сахалинске открылся офис дальневосточного отделения Российского арбитражного центра
https://sakhalin.info/news/158262
2018年9月18日 Sakhalin Media
Офис РАЦ открылся в Южно-Сахалинске
Арбитражное учреждение включает базу специалистов со всего Дальнего Востока и стран Азиатско-Тихоокеанского региона
https://sakhalinmedia.ru/news/735988/

記念セミナーも無事に終了し,その後ユジノサハリンスク市内にある日本料理店「豊原」で懇親会が開催されました。ここのオーナーである一関権路氏は北海道出身の方で,長年ユジノサハリンスクの地に根をはってレストランを営業しており,現在ではレストランだけではなく水産物の流通なども行ない,地元のロシア人とも交流が深い人物です。料理も,サハリン産の食材を使った本格的な日本料理からロシア風にアレンジされたものが提供され,参加者皆が満足した懇親会となりました。

《記念セミナーの後は、ロシア側から祝賀会にて心温かい歓迎を受けました。誠に有り難うございます。》

翌日は,サハリン時間午後12時半(日本時間午前10時半)から,インターネット中継を活用した東京とサハリンの二元的ロシア法研究会が開催されました。ロシア側からは特別参加として,ガリレンコ所長とショカレフ弁護士が参加した。宍戸弁護士による日本からの発表に引き続き,ガリレンコ氏からも昨日のセミナーやロシア仲裁制度等について発表を頂きましたが,このようにロシア法勉強会もインターネットを用いてロシア弁護士等と一緒にやることも意義があると感じた次第でした。

ロシア法研究会の後は,川村明会長と長友でショカレフ氏の事務所やサハリン州弁護士会を訪問するなどして,飛行機の時間までユジノサハリンスクを楽しみました。飛行機の出発はサハリン時間の午後9時でしたが,その時間までショカレフ弁護士が同行して頂くとともに,空港での貴賓室の手配などを行ってくれるなど快適な時間を過ごすことができました。

《ユジノサハリンスクのレーニン像の前で記念撮影:川村明議長(中央)、田中幹夫会員(左)、長友隆典事務次長(右)》

このような短期間の行程でしたが,ロシア仲裁センターが極東地域にまで支所を複数開設し,紛争解決の主体となるように働きかけていることの背景には,ロシア国内では膨大な訴訟が提起されており裁判所だけでは処理できないという事情や日本その他の周辺国との紛争解決主体として裁判所が事実上役に立たないという事情があるのではないかと思われます。一方で,ロシアに設立された仲裁所はあくまでロシア法により設立されたものですから,ロシア国内の規制や制度の枠内で運用されるものであることに注意が必要かと思います。
したがって,真に日本国内企業にとって有益な仲裁所を目指すのであれば,日本法を準拠法とした上で同様の国際仲裁所を日本国内の東京や主要都市のみではなく地方においても設立することも検討に値すると思われます。
また,北海道弁護士会連合会ではサハリン州と友好協定を締結し,20年以上も交流を深めてきましたが,これを機会に日露法律家協会の会員もサハリンの弁護士等との交流を進めるきっかけになることを願っております。

最後に,川村明会長及び田中幹夫先生にはご出席のために時間をいただいたことに謝意を表するとともに,ガリレンコ所長及びショカレフサハリン州弁護士には多大なる便宜をはかってもらったことに心からの感謝を表します(文責:長友隆典事務次長(弁護士))。

2018年11月9日

ガルージン大使様が当協会までお運び下さいました。

平成30年11月9日 ミハイル・ガルージン・ロシア連邦大使様が、当協会の川村明議長に表敬訪問にお越しになられまして、アレクサンドル・コノヴァロフ・ロシア司法大臣様からの感謝状をお渡しになられました。協会一同、大変光栄に存じます。誠に有り難うございました。

《コノヴァロフ司法大臣様からの感謝状~大変光栄に存じます~》

その後、当協会の川村議長との間で懇談が行われましたが、ガルージン大使様からは、以下のようなお話を頂きました。

・昨日、エレーナ・ボリセンコ前副大臣からも電話で話したが、川村明先生に、くれぐれも宜しくお伝えくださいとのことです。
・サンクトペテルブルク国立大学では、現在、日本の法律学者が、日本の法律について教えに来て下さるようになりました。ロシアに対する貢献を高く評価しております。
・川村明先生は、以前、メドベージェフ首相の論文を、和訳(抄訳)して日本の権威ある文献に投稿(※)して下さったと伺っております。こちらをご提供いただけないでしょうか。
(※)『ロシアの司法改革とメドベージェフ首相のメッセージ~サンクト・ペテルスブルグ国際法律フォーラム』自由と正義2013年 Vol.64 No.1[1月号](日本弁護士連合会)
・エレーナ・ボリセンコ前副大臣からは、サハリンのロシア仲裁センター開所式に川村先生がいらっしゃったことに、深く感謝しています。
・サンクトペテルブルクの国際リーガルフォーラムは、本年度は4600人、90か国からの参加を得ました。来年も是非、多くの日本人の法律家が参加して下さるようお願いいたします。
・在日ロシア人の法律問題については、今後、ご協力いただきたく宜しくお願いします。

《非常に堪能な日本語でお話をされるガルージン大使様(向い側中央)》


また、当協会の川村明共同議長からは、以下のようにご返答させて頂きました。

・いつも、大変お忙しいガルージン大使様におかれまして、本日は、わざわざお越し下さいまして、誠に有り難うございました。大変光栄に存じます。
・日本では、大阪に国際仲裁センターが開所し、まもなく東京でも開所する予定であり、仲裁元年ともいえる年でございます。特に、日露の商事紛争を解決する仲裁制度は重要と考えており、是非、大使のご支援を賜りたくお願いします。
・サハリン訪問は、大変、有意義な経験でした。信頼できる仲裁機関を作ることは、安心して商取引ができる基盤であり、日露経済協力を促す一つの大きな要因となるでしょう。
・日露が仲裁機関設立で協力していることをアピールすることが大切です。何かあっても『法の支配』で解決してくれることを内外にアピールすることは、皆さまの信頼を得るためにとても重要なことになります。
・今後、ロシア大使館の行事等がございましたら、当協会としても、なるべくご協力するように致しますので、どうぞお知らせください。
・本日は、お忙しいところご来所くださいまして、誠に有り難うございました。

《ご来訪されたガルージン大使様(左側中央)に対する御礼と今後の協力についてご返答申し上げる川村明議長(右側最右)、並んで小林会員、中野事務次長》

改めまして、ミハイル・ガルージン駐日ロシア連邦大使様におかれましては、本日は、お忙しい中、当協会までお越し下さいまして、誠に有り難うございました。つつしんで御礼申し上げますと共に、協会一度、大変、光栄に存じます。

《最後に皆様全員で記念撮影をしました(中央右:ガルージン大使様、中央左:川村明議長)》

今後も、誠に微力ではございますが、当協会はガルージン大使様をはじめロシア大使館の皆様に協力して参りたく存じます。何卒、宜しくお願い申し上げます(文責:小川)。

 

2018年9月18日

第8回ロシア法研究会が開催されました。

平成30年9月18日 第8回ロシア法研究会が開催されました。今回は、講師に瓜生・糸賀法律事務所の宍戸一樹先生をお迎えして、『ロシアにおける近時著名な事件・法改正等:ロシア仲裁法)』をご講義いただきました。
宍戸先生からは、ロシアの複雑と云われる仲裁法の全体像を、体系的に、また非常に分かり易く解説いただいました。誠に有り難うございました。

また、本日は、川村明議長、田中幹夫会員、長友隆典会員が、ロシア・サハリン国際仲裁裁判所の開設記念式典に参加している関係から、サハリンに接続してのビデオ参加となりました。

《サハリン国際仲裁センター開所式でご挨拶される川村明議長(右から2番目)、田中幹夫弁護士(最左)、長友隆典弁護士(左から2番目)、アンドレイ・ゴーレンコ・ロシア仲裁裁判所代表(最右)》

サハリンからは、当協会のロシア側創立メンバーであるアンドレイ・ゴーレンコ・ロシア仲裁裁判所代表も研究会に参加されて、、ご意見やアドバイスを頂きました。

《サハリンから研究会参加されるロシア国際仲裁センター所長のアンドレイ・ゴーレンコ様(写真左)、川村明議長(中央)、長友隆典弁護士(右)》

第1 ロシアの仲裁法の法源
まず、ロシア仲裁法の法源としては、以下のものとがあります。
1. ロシア国内仲裁法(О третейских судах в Российской Федерации:ロシア連邦法律2002年7月24日付第102-FZ号)(なお、下記3の立法により廃止・執行)
2. ロシア国際商事仲裁法(О международном коммерческом арбитраже:ロシア連邦法律1993年7月7日付第5338-1号)
3. ロシア仲裁法(Об арбитраже (третейском разбирательстве) в Российской Федерации:ロシア連邦法律2015年12月29日付第382-FZ号)
4. ロシア商事訴訟法典(Арбитражный процессуальный кодекс Российской Федерации:ロシア連邦法律2002年7月24日付第95-FZ号)
5. 外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(Нью-йоркская (1958 г.) Конвенция ООН о признании и приведении в исполнение иностранных арбитражных решений)
6. 国際商事仲裁に関する欧州条約(Европейская конвенция 1961 г. о внешнеторговом арбитраже)
7. 経済及び科学・技術協力関係から生ずる民事法紛争の仲裁による解決に関する条約(Московская конвенция о разрешении арбитражным путем гражданско-правовых споров, вытекающих из отношений экономического и научно-технического сотрудничества от 26 мая 1972 г.)

第2 沿革等
1. 仲裁法の適用関係(旧法下:2015年改正前)
ロシア連邦において行われる仲裁手続は、国内仲裁と国際商事仲裁とに区別され、かつては、国内仲裁については「ロシア連邦における第三裁判所に関する」ロシア連邦法律(2002年7月24日付第102-FZ号、以下「国内仲裁法」といいます。)が、国際商事仲裁については「国際商事仲裁に関する」ロシア連邦法律(1993年7月7日付第5338-1号、以下「国際商事仲裁法」という。)がそれぞれ適用されていました。

2.仲裁法の適用関係(新法下:2015年改正後)
2015年12月29日、プーチン大統領は、仲裁に関する一連の法令を改正する連邦法(2015年12月29日付第409-FZ号連邦法律)に署名し、それにより、「ロシア連邦における仲裁(第三者審理)に関する」連邦法律(2015年12月29日付第382-FZ号、以下「ロシア仲裁法」といます。)が2016年9月1日に施行され、他方で、2002年国内仲裁法が失効しました。
他方、1993年国際商事仲裁法は、UNCITRALモデル仲裁規則を参照して制定されたものです。(同法の適用範囲の詳細は、後述します。)
そして、「国際商事仲裁」についても、2015年以降の法改正により、その範囲が拡大されています。
すなわち、ロシア仲裁法の施行後においては、ロシア連邦における国際商事仲裁については、国際商事仲裁法のみならず、ロシア仲裁法の適用も受けることになりました。

3. 2015年ロシア仲裁法の制定の背景
ロシア仲裁法が制定された拝啓は、概ね以下のとおりです。
・ 国内において乱立していた仲裁機関に対する規制の導入
・ 仲裁活動の法的規制の不備(不完全性)に関する手続の濫用への対応
・ 2006年UNCITRALモデル仲裁規則改正の反映(仲裁制度の更なる国際化)
・ 国際商事仲裁に対するロシア法規制の強化

第3 仲裁法
1. ロシアにおける国際仲裁と国内仲裁の区別
(1) 国際商事仲裁法(第1条第3項)
国際商事仲裁においては、当事者間の合意により、次の紛争を解決するものとされます。
・ 少なくとも当事者の1人である商業企業が海外にある、又は当事者間の関係から発生する大部分の債務の履行地若しくは紛争の対象(訴訟物)と最も密接な関係がある場所が外国にある場合、外国貿易及びその他の種類の国際経済関係を実施する際に契約上及びその他の民事上の法的関係から生じる紛争
・ ロシアでの外国投資又は外国でのロシア投資の実施から発生する紛争

(2) ロシア仲裁法(第1条第3項)
連邦法による別段の定めがない限り、民事上の法的関係の当事者間における紛争は、当事者間の合意による仲裁(仲裁手続)に付託される。

2. ロシアにおいて活動が認められている仲裁機関
現時点では、次の機関が常設仲裁機関としての機能を果たすことができる。
① ロシア連邦商工会議所海上仲裁委員会(法律の規定に基づく)
② ロシア連邦商工会議所国際商事仲裁裁判所(法律の規定に基づく)
③ 独自非営利団体「ロシア近代仲裁協会」のロシア仲裁センター(ロシア連邦政府の指令(2017年4月27日付の第798-p号)に基づく)
④ 全ロシア公共機関の「中小企業仲裁裁判所」の仲裁センター(ロシア連邦政府の指令(2017年4月27日付の第798-p号)に基づく)
【参考URL】
http://minjust.ru/ru/deyatelnost-v-sfere-treteyskogo-razbiratelstva/deponirovannye-pravila-arbitrazha

3. ロシア仲裁法の射程(外国の国際商事仲裁にロシアの仲裁法が適用されるか否か)
外国の常設仲裁機関(LCIA、ICC、ストックホルム商工会議所等)であっても、ロシア連邦の領域内において(常設仲裁機関として)仲裁手続を実施しようとする場合には、「当該外国常設仲裁機関に広く認められた国際的なレピュテーションがあること」を認定要件として認められます。
しかし、現在においても、これら認定を受けた外国仲裁機関はなく、仮に、ロシア国内で仲裁を実施したとしても、アドホック仲裁の仲裁判断であるとみなされるに過ぎません。
なお、ロシア連邦におけるアドホック仲裁は、常設仲裁機関による仲裁と比較して、コーポレート紛争(後述)が除外されたり、その後、ロシア裁判所による仲裁判断の取消可能性を合意により排除できない等の不利益があるといわれます。

4. 仲裁合意について
(1) 仲裁合意の有効要件
ロシア連邦において仲裁手続を有効に行うための「仲裁合意」に関する要件は、国際商事仲裁法とロシア仲裁法のいずれも第2章(第7条から第9条まで)に規定されていいますが、何れも、書面により締結される必要があります。
もっとも、仲裁合意に関する情報の固定又は当該情報の入手可能性が確保できる形態で締結される場合、書面で締結されたとみなされたり(国際商事仲裁法第7条第3項)、手紙、電報、テレックス、その他の電子文書等によって仲裁が合意された場合も、仲裁合意は書面で締結されたものとみなされます(ロシア仲裁法第7条第3項)。

(2) 仲裁合意の有効性の判断機関
仲裁合意の存否及び有効性は、当該仲裁裁判所(すなわち、仲裁廷)又は商事裁判所によって判断されます(ロシア仲裁法第16条第1項)。
他方で、ロシア連邦商事訴訟法典の第233条第3項第2号によれば、ロシアの商事裁判所は、仲裁裁判所が下した仲裁判断を取り消す権限を有しますが、その取消事由の一つとして、「仲裁裁判所が紛争を解決した根拠であった仲裁合意が、当事者が選択した法律(かかる選択がなかった場合は、ロシア連邦の法律)により無効である場合(третейское соглашение, на основании которого спор был разрешен третейским судом, недействительно по праву, которому стороны его подчинили, а при отсутствии такого указания – по праву Российской Федерации)」を規定しています。

5. ロシア連邦において仲裁が可能な紛争
ロシア連邦において仲裁が可能な紛争(事件)であるか否かについては、以下の3つのカテゴリーに分けて考える必要があります。
(1) 完全に仲裁が可能な紛争(第1カテゴリー)
(2) 完全に仲裁が不可能な紛争(第2カテゴリー)
に規定された紛争である。仲裁不可能な事件の例としては、公共的な要素を含む紛争、破産事件、国家登録に関する事件、知的財産権事件、株主総会招集、その他コーポレート紛争のうちの大多数のもの(ロシア連邦商事訴訟法典第33条第2項)、また、家族の身分関係、労働関係、相続関係、国家調達、生命・健康被害、立退、環境等から発生した紛争(ロシア連邦民事訴訟法典の第22.1条第2項)は、仲裁をすることはできないことになっております。
(3) 条件付きで仲裁が可能とされている紛争(第3カテゴリー)
これには、2015年のロシア仲裁法の改正により新たに導入された「コーポレート紛争にかかる仲裁」の対象となる、コーポレート内部紛争が該当します。
コーポレート紛争の法的定義は、ロシア連邦商事訴訟法典第225.1条において定められており、法人設立、法人経営又は法人への参加に関連する紛争であり、同条においては、コーポレート紛争としての個々の紛争類型、例えば、ロシア法人の株式や持分の所有に関する紛争、法人の経営(企業契約から発生する紛争を含む。)に関する法人の参加者間の合意から発生する紛争、法人の参加者の総会の招集に関する紛争等についての包括的なリストも規定されています。
コーポレート紛争については、これを仲裁で審理するためには次の要件を満たさなければなりません。
① 仲裁合意に関する要件
(i) 当該合意は、法人のすべての参加者(出資者)、法人、及び仲裁手続に当事者又は第三者として参加するその他のすべての人の間で締結されなければならない。
(ii) 当該合意は独立した書類として締結することができ、参加者(出資者)のその他の合意(企業契約や法人の定款、但し、株主1000人以上の株式会社や公共株式会社は除く。)において仲裁条項として規定することができる。
② 仲裁地に関する要件
「一定の条件の下で仲裁審理が可能となるコーポレート紛争」の仲裁地は、ロシア連邦のみとする。
③ コーポレート紛争の仲裁規則に関する要件
常設仲裁機関は、コーポレート紛争の仲裁規則を制定した上で、ロシア連邦法務省に預託し、かつ、仲裁機関の公式ウェブサイトに掲示しなければならない。

6. ロシアにおける仲裁手続の準拠法
仲裁裁判所は、①ロシア法の規定に従い、又は、②ロシア法に従って外国法を適用法(準拠法)として選択できる場合、当該外国法により紛争を解決します。
当事者により指定された法がない場合は、仲裁裁判所は、当該仲裁裁判所が適用可能と判断する適用法を選択します。

7. ロシアにおける仲裁手続の言語
当事者は、自己の裁量により、仲裁の過程で使用される(一つの)言語又は複数の言語に関して合意することができる。かかる合意がない場合、仲裁はロシア語で行われるものとされます(ロシア仲裁法第24条)。

8.ロシアにおける仲裁判断の取消事由(参考:ロシア連邦商事訴訟法典の第233条)
1. 仲裁裁判所の判断は、この条で定めた場合にのみ、商事裁判所により取り消すことができる。
2. 仲裁裁判所の判断は、この条第3項及び第4項に定める事由に基づき商事裁判所により取り消すことができる。仲裁裁判所の判断は、当該判断の取消しを申立てた当事者が相応する事由に言及しない場合でも、この条第4項に定める事由に基づき商事裁判所により取り消すことができる。
3. 仲裁裁判所の判断は、当該判断の取消しを申立てた当事者が次の事実を証明する証拠を提出した場合にのみ、商事裁判所により取り消すことができる。
1) 仲裁裁判所の根拠となった仲裁合意の一方当事者が完全な行為能力を有してなかったという事実
2) 仲裁裁判所の根拠であった仲裁合意が、その準拠法(準拠法の規定を欠く場合には、ロシア法)に基づき無効であったという事実
3) 仲裁裁判所の判断が、仲裁合意に定められていない紛争、又は仲裁合意の条件に該当しない紛争に関して下され、並びに、仲裁裁判所の判断が、仲裁合意の範囲を超える事項に関して下されたという事実
4) 仲裁裁判所の構成又は仲裁手続が、当事者の合意又は連邦法に違反したという事実
5) 仲裁裁判所の判断により負訴した当事者が、仲裁人の選任又は仲裁裁判所の期日及び場所について正式に通知されておらず、又はその他の正当な理由により仲裁裁判所に自己の主張を提出できなかったという事実
4. 商事裁判所は、次の事実が認定された場合には、仲裁裁判所の判断を取り消す。
1) 仲裁裁判所が解決した紛争が、連邦法によれば仲裁裁判所の審理の対象とはならない場合
2) 仲裁裁判所の判断が、ロシア連邦の公的秩序に反する場合
5. 国際商事仲裁の判断は、ロシア連邦国際条約及び国際商事仲裁に関する連邦法によって規定される事由により取り消されることができる。

8. ロシアにおける外国仲裁判断の承認・執行拒絶事由
ロシアも、いわゆるニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(1959年発効))の加盟国の一つです。
上記条約により、外国における仲裁判断も、ロシア国内で承認・執行されるのが原則ですが、一定の場合には、「外国裁判所及び外国仲裁判断の承認・執行拒絶事由」を規定して承認・執行されない場合があります。
※ なお、原文では、「裁判所」と「仲裁廷」、「訴訟」と「仲裁」、「判決」と「仲裁判断」の区別はないようです。
〔ロシア連邦商事訴訟法典第244条〕
1. 仲裁裁判所は、以下の事由がある場合には、外国裁判所の仲裁判断の全部又は一部の承認及び執行を拒絶するものとする。
1) 外国裁判所の判決が、当該外国の法律の規定によって確定していない場合(終局的な判決ではない場合)
2) 敗訴当事者が適時かつ適切に訴訟の審理期日及び場所に関して通知されておらず、又はその他の事由によって審理において自己の主張ができなかった場合
3) 国際条約又は連邦法の規定によれば、当該訴訟に関してロシア裁判所が専属管轄権を有する場合
4) 同一当事者間の、同一事項に関する、同一事由に基づく紛争について、既に確定したロシア裁判所の判決がある場合
5) 外国裁判所において訴訟が開始する前に、同一当事者間の、同一事項に関する、同一事由に基づく紛争について、既にロシア裁判所において訴訟が開始された場合
6) 外国裁判所の判決の執行可能期間が徒過しており、ロシアの裁判所によってその期間が回復されていない場合
7) 外国裁判所の判決の執行がロシア連邦の公序に反する場合

〔ロシア国際商事仲裁法第36条〕
1. 仲裁裁判所の仲裁判断の承認及び執行においては、当該仲裁判断が下された国にかかわらず、以下のいずれかの場合には(承認・執行が)拒絶され得る。
2. 名宛人とされた当事者の請求に基づく場合。但し、当該当事者が承認・執行について管轄のある裁判所に対して次の証拠を提出した場合に限る。
・ 仲裁判断が、第7条で規定された仲裁合意に基づき下され、かつ、その当事者の一方が何らかの形で無能力であったこと
・ 仲裁合意が、当事者が従うこととした法令に基づき、又はそのような法令の指定がない場合には仲裁判断が下された国の法令に基づき、無効であること、
・ 名宛人とされた当事者が然るべき方法によって、仲裁の審問の期日、仲裁の開始若しくは仲裁手続について通知されず、又は他の正当な理由のために、自己の主張(説明)を提供できなかったこと、
・ 仲裁判断が、仲裁合意に規定されていない紛争、又は仲裁合意の対象となっていない紛争について行われたものであるか、仲裁合意の範囲を超えた問題に対する決定を含むものであること。仲裁合意の対象となる事項についての決定が、当該合意の対象外の事項と分離できる場合には、仲裁合意の対象とならない事項の決定を含む仲裁判断の一部のみが承認・執行され得る。
・ 仲裁廷の構成又は仲裁手続が、当事者の合意又は仲裁手続が実施された地の法令に適合しなかったこと。
2) 管轄のある裁判所は、以下のとおり決定する。
紛争の対象は、連邦法に従って、仲裁手続の対象とすることはできない;又は
仲裁判断の承認・執行は、ロシア連邦の公序に反する。

今回、講師をおつとめ頂きました宍戸一樹弁護士(瓜生・糸賀法律事務所)には、つつしんで御礼申し上げます。(文責:小川)

※本ウェブサイトで公開される内容は、あくまでロシア法研究会で交わされた議論の概略を報告したに過ぎません。掲載内容の正確性や事実の真実性を保証するものではございませんので、ご理解いただきたくお願い申し上げます。

2018年5月17日

第3回カウンシル・ミーティング(サンクトペテルブルグ)が開催されました。

今回も、アレクサンドル・コノヴァロフ・ロシア連邦司法大臣にご臨席いただけましたのは、大変光栄に存じます。

また、サンクトペテルブルク 国立大学(Санкт-Петербургский государственный университет)法学部学長のセルゲイ・ベローフ先生モスクワ国立大学(Московский государственный университет)法学部学長のアレクサンドル・マロトニコフ先生にもご参席いただきました。

協会一同、つつしんで御礼申し上げます。

① 日時 2018年5月17日午後4時00分~午後6時00分
② 場所 リーガルフォーラム会場2階来客室1
③ 出席者 以下のとおりです。

【ロシア側(以下、敬称略)】
 〔当協会メンバー〕
エレーナ・ボリセンコ(司法前副大臣、ガスプロム銀行副代表、協会ロシア側代表)、アンドレイ・ゴーレンコ(ロシア仲裁協会代表理事)、ワシーリー・ルドミノ(ALRUD法律事務所シニア・パートナー)、デニス・プチコフ(プチコフ&パートナーズ法律事務所代表)、エレーナ・シギディーナ(FBK実務担当部長)、アントン・アレクサンドロフ(モナツルスキー・ジューバ・ステパノフ・パートナーズ法律事務所シニア・パートナー)、ウラジミール・ザブロディン(キャピタル・リーガル・サービス・インターナショナル・LLC法務部長)、エンゲニー・ラシチェフスキフ(エゴロフ・プジンスキー・アファナシエフ法律事務所、法学博士)
〔オブザーバ〕
セルゲイ・ベローフ(サンクトペテルブルグ国立大学法学部教授・同学長)、アレクサンドル・マロトニコフ(モスクワ国立大学法学部教授・同学長)、ヤーナ・アリモーヴァ(モスクワ国立大学法学部国際私法准教授)、
〔ご来賓〕
アレクサンドル・コノヴァロフ(ロシア国司法大臣) 、アンドレイ・チューマコフ(同司法省 組織統制ディプロマット部長)、

【日本側(以下、敬称略)】
〔当協会メンバー〕
小川晶露(日本側事務局長、弁護士)、中野由紀子(同事務次長、弁護士)、長友隆典(同事務次長、弁護士)、佐藤史人(名古屋大学大学院法学研究科教授(ロシア法))、小島武司(中央大学名誉教授(民事訴訟法)、リーガル・フォーラム組織委員会理事、同フォーラム法学研究賞審査委員会委員長)
〔オブザーバ〕

金山直樹(慶應義塾大学法科大学院教授(民法、国際私法))、澤野正明(日弁連前副会長、弁護士)、宍戸一樹(瓜生糸賀法律事務所パートナー、弁護士)、柴田正義(モスクワ国立大学大学院法学研究科特別研究生、名古屋大学大学院法学研究科)
〔ご来賓〕
福島正則(在サンクトペテルブルク日本領事館総領事)
※なお、日本側代表の川村明弁護士は、所用のため今回は不参加となりました。

カウンシル・ミーティング開始前の様子
カウンシル・ミーティング前に挨拶をされるエレーナ・ボリセンコロシア側議長
《開始前に歓談されるコノヴァロフ大臣(右)とボリセンコ共同議長(中央)》

④会談の概要
冒頭15分程度、アレクサンドル・コノヴァロフ・ロシア連邦司法大臣がご挨拶をされ、フォーラム参加に対する謝意と、今後の協力要請について話をされました。

《カウンシル・ミーティングの冒頭にご挨拶をされるコノヴァロフ・ロシア連邦司法大臣》
《カウンシル・ミーティングの模様(ロシア側:右からゴーレンコロシア氏、コノヴァロフ大臣、ボリセンコ共同議長)》
《カウンシル・ミーティングの模様(日本側):左から事務局の長友隆典弁護士、小川晶露弁護士、中野由紀子弁護士、金山直樹教授》

その後、エレーナ・ボリセンコ氏が協会ロシア側を代表してご挨拶をされ、続いて小川晶露事務局長が協会日本側の代表代行として、川村明メンバー(日本側代表)の欠席をお詫びし、同時に昨年12月にコノヴァロフ司法大臣が来日した際、ロシア側メンバーの尽力に対する感謝の意を伝えました。
その上で、第3回カウンシル・ミーティングの議事は、次のとおり進行しました(概略)。

1)慶應義塾大学から派遣された金山直樹教授より、同大学LLMコースの概略の説明と、今後、ロシアの大学との間の協力関係について、積極的に進める準備がある旨、プレゼンテーションがありました。

《大学間の人的交流についてプレゼンテーションされる金山教授(慶應大)》

2)これを受けて、サンクトペテルブルク国立大学法学部セルゲイ・ベローフ学長より、本年9月に同大学内に初めて日本法研究教育プログラムを開設する予定であること、これに伴い学生・講師等の人的交流を進めたい旨、発表がありました。

《大学間の人的交流についてお話されるセルゲイ・ベローフ・サンクトぺテルブルク国立大学法学部教授・同学部長(中央)》

3)瓜生・糸賀法律事務所の宍戸一樹弁護士より、若手法律家の人的交流という観点から日露法的サービスの領域における双方法律家の協力関係の現状についてプレゼンテーションがあると共に、同事務所においては若手インターンシップの受入可能性がある旨、報告がありました。

《法律事務所間における若手法律家の人的交流についてプレゼンテーションされる宍戸一樹弁護士(右)、森田裕子弁護士(左)》

4)モスクワ国立大学法学部准教授ヤーナ・アリモーヴァ氏より、同大学で受入れをする際の展望と課題についてお話がありました。

5)慶應義塾大学から派遣された金山直樹教授より、LLMコースの場合、提携の法律事務所でのインターンシップも実施されている旨、示唆がありました。

《左から順番に、小島武司名誉教授(中央大)、金山直樹教授(慶應大)、福島正則総領事(サンクトペテルブルグ)、佐藤史人教授(名古屋大)》

6)ALRUD法律事務所シニア・パートナーのワシーリー・ルドミノ氏より、若手実務家の人的交流は、3年程度の実務経験を踏まえた上でのインターンシップが望ましい旨のご発言がありました。

《若手弁護士のインターンシップについて経験と知見を提供するルドミノ弁護士》

7)小川晶露事務局長より、現在の協会日本側の活動状況(前年のコノヴァロフ大臣訪日アテンド・上川法務大臣会談、ロシア法研究会の状況等)について、ウェブサイトを使用しながら報告がありました。

8)長友隆典事務局より、地方会(札幌弁護士会)におけるサハリン弁護士会との交流の状況と、地方弁護士のインターンシップや交流の重要性についてプレゼンテーションがありました。

長友隆典弁護士(当協会事務次長)によるプレゼンテーション》
《同上》
《ロシア側会員のアンドレイ・ゴーレンコ・ロシア仲裁協会所長(中央)》

9)その後も活発な議論が交わされましたが、時間の関係で、エレーナ・ボリセンコ氏の提案により、各大学と各法律事務所は検討を続けることとし、本年8月末までに、具体的な内容を書面で提案することとなった。

以上の会談が行われた後、ロシア側代表と日本側代表代行の間で、記念品の交換と写真撮影が行われて第3回カウンシル・ミーティングは終了しました。

この度は、サンクトペテルブルグまでご一緒させていただきました小島教授、金山教授、佐藤教授、宍戸一樹弁護士、森田裕子弁護士、その他の多くの皆さまには、第3回カウンシル・ミーティングにご参加・ご協力いただきまして誠に有り難うございました。

《元外交官の中野由紀子弁護士(当協会事務次長)》
《(日本側)議長の川村明弁護士》

また、今回もロシア語・英語でロジ調整に大活躍でした事務局の中野由紀子弁護士と長友隆典弁護士、そして何よりも、日本から温かく応援し続けて下さった川村明(日本側)議長には、心より御礼申し上げます。皆さま、誠に有り難うございました。(文責:小川)

 

 

 

2018年5月15日~

第8回サンクトペテルブルク国際リーガルフォーラムが開催されました。

2018年5月15日~同18日、第8回目のサンクトペテルブルク国際リーガルフォーラム(以下「サンクト国際フォーラム」といいます。)が開催され、当協会の会員も参加しました。サンクト国際フォーラムは、毎年、宮殿広場( Дворцовая площадь)でエルミタージュ国立美術館(Государственный Эрмитаж)を眼前に臨む庁舎建物内で開催されます。

サンクト国際フォーラム会場:真向いに見えるのはエルミタージュ美術館

当協会は、2017年5月16日、アレクサンドル・コノヴァロフ・ロシア連邦司法大臣のお立合いの下、サンクト国際フォーラムの後援を得て設立されました。詳しくは、2017年5月16日の記事をご参照下さいませ。

サンクト国際フォーラムは、毎年、参加人数・参加国が増え続けています。初年度(2011年度)の参加者数は僅か757名でしたが、本年度は、90ヵ国から合計4502名の参加となりました。まだ第8回目に過ぎず、決して歴史は長くありませんが、既に世界のリーガル・フォーラムの中でも、最大規模の国際大会の一つとなっています。

サンクト国際フォーラム会場:庁舎建物とフォーラム会場の入口付近の様子

5月15日夕方7時から、サンクトペテルブルク国立アカデミーフィラルモーニア劇場(ミハイロフスキー劇場:Санкт-Петербургская государственная Академическая филармония им. Д.Д. Шостаковича )にて、第8回フォーラム開会式とリーガルアワード受賞式典が開催されました。

まず、アレクサンドル・コノヴァロフ・ロシア連邦司法大臣からご挨拶と第8回サンクト国際フォーラムの開会宣言があり、その後、同フォーラム組織委員会からプログラムの概要説明がありました。

オープニングセレモニー会場のサンクトペテルブルグ国立アカデミーバレエ劇場

 

開会宣言を行うアレクサンドル・コノヴァロフ・ロシア連邦司法大臣
オープニング・セレモニーで本フォーラム組織委員会の理事として紹介される川村明弁護士(当協会の日本側議長です)

そして、昨年度、宣言されていたリーガルアワード(第1回)の授賞式典に移りましたが、本フォーラム法学研究賞審査委員会委員長の小島武司名誉教授から第1回目受賞者7名と最優秀賞者1名の発表と記念品の授与がありました。
※審査委員長をつとめた小島教授は、当協会日本側の正会員でもあり、サンクト国際フォーラム組織委員会の理事もおつとめです。

その後は、カルチャー・ブログラムに続きました(ピアノ独奏:ドミトリー・アレクセイエフ氏)。

第1階リーガルアワードの受賞式典:ラウレアートの発表(左側が審査委員会委員、右側が各受賞者)
第1回リーガルアワードの受賞式典:審査委員長である小島武司名誉教授(民事訴訟法)から各受賞者に対して記念品が手渡された。
オープニングにつづきカルチャープログラム(ピアノ独奏:ドミトリー・アレクセイエフ)が行われた。

 

そして、翌16日の正午からは、リーガルフォーラム会場1階(Amphitheatre)にて、プレナリー・セッション(本会議)が開催されました。このセッションには、既に、毎年恒例となりましたが、ドミトリー・メドヴェージェフ・ロシア連邦首相がスピーカとして参加するため、たくさんの聴衆が来ていました。大変な混雑の中、私達を案内して下さったイリーナ・クレメンティヴァ様(Ирина Клементьева、モスクワ都市弁護士会国際部長)には、つつしんで感謝申し上げます。

プレナリーセッション会場(Amphitheatre)の様子
毎年恒例となったドミトリー・メドベージェフ・ロシア連邦首相の基調講演

上記をクリックしますと動画が再生されます(コノヴァロフ司法大臣がスピーチを開始する冒頭の様子になります)。

2018年5月7日

第6回ロシア法研究会が開催されました。

今回も、札幌弁護士会の平尾功二弁護士(房川・平尾法律事務所)を講師にお迎えして、『ロシア民事訴訟法②』をテーマに、管轄を中心としてロシア民事訴訟手続を概観しました。

1.管轄の意義
 まず始めに、管轄を意味するロシア語として、主としてподведомственностьとподсудность が登場します。
前者(подведомственность)は、事件が通常裁判所、商事裁判所、憲法裁判所のいずれに管轄がある場合であるかについての意義で用いられるため、当研究会ではこれを「裁判管轄」と和訳することとし、また、後者(подсудность)は、通常裁判所における治安判事と地区裁判所の管轄の違いを意味するため、これも当研究会では、подсудностьを「事物管轄」、территориальная подсудностьを「土地管轄」と和訳して進めることにしました。

2.審理対象
 まず、通常裁判所における民事訴訟の審理対象となる事件は、ロシア連邦民事訴訟法(以下「民訴法」といいます。)第22条に列挙されています。具体的には、次のとおりです。

Статья 22. Подведомственность гражданских дел судам
1. Суды рассматривают и разрешают
1) исковые дела с участием граждан, организаций, органов государственной власти, органов местного самоуправления о защите нарушенных или оспариваемых прав, свобод и законных интересов, по спорам, возникающим из гражданских, семейных, трудовых, жилищных, земельных, экологических и иных правоотношений;
(要訳)
第22条 民事事件の裁判管轄
1.裁判所が審理・判決するのは、次のとおり、
1)民事・家事・労働・住居・土地・環境・その他の権利関係から生じて紛争になっている、侵害され又は紛争となっている権利・自由・法的利益の保護に関して、個人・法人・国家、地方自治体が当事者となる争訟事件

以上のとおり民事訴訟の審理対象が規定されています。
 第22条1項は、上記の1)以下においても、例えば、2) дела по указанным в статье 122 настоящего Кодекса требованиям, разрешаемые в порядке приказного производства(本法122条の規定により、命令手続の規定において審理される事件)や、6) дела о признании и приведении в исполнение решений иностранных судов и иностранных арбитражных решений(外国判決の承認・執行に関する事件)についても審理・判決することが規定されます。
 また、第22条2項は、“Суды рассматривают и разрешают дела с участием иностранных граждан, лиц без гражданства, иностранных организаций, организаций с иностранными инвестициями, международных организаций”と規定して、外国人・無国籍者・外国法人・外国資本の法人・国際機関を当事者とする訴訟も一般的に審理対象となることを規定しますが、第3項では但書で“...за исключением экономических споров и других дел, отнесенных федеральным конституционным законом и федеральным законом к ведению арбитражных судов”と規定して、連邦憲法や連邦法に関係して商事裁判所の管轄に属する経済的紛争その他の事件は除かれる、として除外しています。

3.商事訴訟法(補足)
 そして、上記における「商事裁判所の管轄に属する経済的紛争」として、ロシア連邦商事訴訟法(以下「商訴法」という。)第27条1項は、「経済的紛争、企業活動、その他の経済活動の遂行と関連するその他の事件は商事裁判所の管轄に属する。」(=“Арбитражному суду подведомственны дела по экономическим спорам и другие дела, связанные с осуществлением предпринимательской и иной экономической деятельности.”)ことを規定して、経済的紛争が商事裁判所の管轄に属することを明言しています。

 さらに、同2項では、商事裁判所は、法人や、法人格はないが事業活動を行う個人事業者が参加する場合、さらに、ロシア連邦・構成主体・州組織・地方組織等が参加する場合においても、経済的紛争であればこれを審理判決することを明記しています(=“Арбитражные суды разрешают экономические споры и рассматривают иные дела с участием организаций, являющихся юридическими лицами, граждан, осуществляющих предпринимательскую деятельность без образования юридического лица и имеющих статус индивидуального предпринимателя, приобретенный в установленном законом порядке……(略)….., а в случаях, предусмотренных настоящим Кодексом и иными федеральными законами, с участием Российской Федерации, субъектов Российской Федерации, …..(略)…..”)。

 他方、商訴法において、日系企業を含む外国企業にとって非常に重要となるのが、同法247条である。同条1項は、経済的紛争や他の事項について、事業活動ないし他の経済的活動を行う者に関して、海外企業、国際組織、外国人、無国籍者が参加する場合には、続いて列挙される1)~10)に該当する場合には、商事裁判所が審理判決することを規定しています。(“Арбитражные суды в Российской Федерации рассматривают дела по экономическим спорам и другие дела, связанные с осуществлением предпринимательской и иной экономической деятельности, с участием иностранных организаций, международных организаций, иностранных граждан, лиц без гражданства, осуществляющих предпринимательскую и иную экономическую деятельность (далее – иностранные лица), в случае, если:”)
 この1)~10)には、例えば、
1)被告がロシア連邦の領域に所在ないし居住している場合、あるいは、ロシア連邦の領土内に財産が損賠する場合(=“ответчик находится или проживает на территории Российской Федерации либо на территории Российской Федерации находится имущество ответчика; ”)、
2)前記の外国企業等の管理組織、支店、又は代表機関がロシア連邦の領土内にいること(=“2орган управления, филиал или представительство иностранного лица находится на территории Российской Федерации;”)、
3)ロシア連邦の領土内で履行される又は履行された契約から発生した紛争であるとき(=“ спор возник из договора, по которому исполнение должно иметь место или имело место на территории Российской Федерации;”)、
などが具体例として挙げられています。

4.裁判管轄判断の困難性
 ところで、ある事件が、通常裁判所の裁判管轄に属するか、商事裁判所の裁判管轄に属するかという問題については、実務上は、非常に難しい問題を生じさせます。例えば、モスクワ市商事裁判所が誤った内容の決定を行ったとするリーディングケースとして、次の事例が挙げられます(Гражданское Процессуальное Право Под Ред Р.А.Курбанова, В.А.Гуреева Проспект 69ページ)。
 こちらは、有限責任会社の社員権を有する母親が死去し、その相続分7.63%の社員権を相続した原告が、当該有限会社及びその社員を被告として、社員権確認請求訴訟を商事裁判所に提起した事件です。
 モスクワ市商事裁判所は、本件請求が、民法、家族法の相続権を根拠とする請求であり、相続に関連する事件であるから、商事裁判所の裁判管轄には属さない旨判示し、終結決定(определение о прекращении производства)をしました(Определение от 13 августа 2014 г. по делу № А40-54737/2014)。
 原告が第一審判決を不服として控訴したところ、第9控訴商事裁判所は、要約しますと『会社、他の社員が原告を社員として認めることを拒絶したことにより提起された本件訴訟は、会社法により規律されるものであり、相続法により規律されるものではない。従って、本件の判決は相続に関する審理をするのではなく、相続人の請求を拒否した他の社員の行為が連邦法「有限会社法」に合致するか、会社の定款に合致するか否かという問題である旨』判示して、原判決を取り消し、差し戻しました。
 なお、この事件はその後の審理において最終的には請求棄却(実体判断)の判決がなされましたが、裁判管轄の判断には困難が伴うことを表しています。
 日本人法律家の感覚からすると原告被告の主張がそれぞれ出揃い、裁判準備期日における争点整理がある程度進行しないと適法な管轄権が判別し得ないものと思われます。管轄権の誤りは消滅時効の進行を中断させず権利消滅させる危険があるばかりか、時効消滅しなくても関係者に莫大な人的・物的資源を消耗させますので、そのような観点からも、未だに大きな問題が残されていると思われます。

これまで2回にわたり講師をおつとめ頂きました札幌弁護士会の平尾功二弁護士(房川・平尾法律事務所)には、つつしんで御礼申し上げます。(文責:小川)

※本ウェブサイトで公開される内容は、あくまでロシア法研究会で交わされた議論の概略を報告したに過ぎません。掲載内容の正確性や事実の真実性を保証するものではございませんので、ご理解いただきたくお願い申し上げます。

2018年3月9日

第5回ロシア法研究会が開催されました。

第5回ロシア法研究会では、札幌弁護士会の平尾功二弁護士(房川・平尾法律事務所)をお迎えし、『ロシア民事訴訟法①』をテーマに、日本の民事訴訟法と比較しながら訴訟手続全般を概観しました。

第1.諸原則
1.弁論主義(принцип состязательноти)
 ロシア連邦憲法(以下「憲法」という。)第123条3項は、「訴訟手続は弁論主義と当事者の平等の原則に基づいて行われる」(”Судопроизводство осуществляется на основе состязательности и равноправия сторон.”)ことを規定し、当事者の弁論主義(принцип состязательноти)を原則とします。
 立証責任(Обязанность доказывания)において、ロシア民事訴訟法(以下「民訴法」という。)56条1項も当事者が請求や抗弁の基礎事実を立証しなければならないと規定されますが(”Каждая сторона должна доказать те обстоятельства, на которые она ссылается как на основания своих требований и возражений…”)、他方で、同条2項は、立証責任の分配を判断するのは裁判所であり、当事者が主張していない事実も争点とすることができるとする点で(Суд определяет, какие обстоятельства имеют значение для дела, какой стороне надлежит их доказывать, выносит обстоятельства на обсуждение, даже если стороны на какие-либо из них не ссылались)、かなり職権的な手続運用が認められている点に留意する必要があります。

2.処分権主義(принцип диспозитивнсти)
 ロシア民訴法も、当事者に訴えを提起する権限(民訴法3条)の他、訴えの変更、請求の放棄、請求の認諾、裁判上の和解(Изменение иска, отказ от иска, признание иска, мировое соглашение)をする権限を規定しており(民訴法39条1項)、日本国における処分権主義と同様の原則をとっていると考えらます。
 他方で、訴えの取り下げに相当する制度が見当たらないようです。

3.口頭主義(принцип устности)
 ロシア民訴法でも口頭主義が採用されており(民訴法157条2項)、口頭主義(や直接主義)が採用されています(”Разбирательство дела происходит устно и при неизменном составе судей.”)。
 日本の民事法廷では、準備書面等を予め裁判所と相手方に提出して、期日当日は「陳述します。」と述べるのが一般的な実務運用となっていますが、ロシアの場合は、冒頭から裁判所・当事者・代理人等が書面を見ることなく、もっぱら口頭により、事実上・法律上の争点に関して審理を進めるのが実務となっています。
 もっとも、ロシア民訴法で定められている訴訟行為、例えば、訴え提起等については訴状を書面(又は電子的形態)で提出しなければならず、一定の範囲で書面主義も採用されています(民訴法3条1項の1)。

第2.検察官(прокурор)の役割
 ソビエト連邦時代には、民事事件についても裁判所を監督する機能を有するとされて、検察官に広範な権限が認められていました。
 現行の連邦憲法においては裁判官の独立が規定されており(連邦憲法120条:”Судьи независимы и подчиняются только Конституции Российской Федерации и федеральному закону.”)、検察官に上記の監督機能はなくなっていますが、それでも現行民訴法は、次の場合には民事訴訟への参加を認めています。

① 法定訴訟担当と類似の参加方式
 ロシア検察官は、①不特定の範囲の者の権利、自由、法律上の利益の保護のため、また、②ロシア連邦、連邦構成主体、地方自治体の利益のために訴訟提起をすることができる。③個人が健康、年齢等のやむを得ない理由により、自ら訴訟を提起することが困難な場合に、その者の権利、自由、法律上の利益を求める場合にも検察官は訴訟提起できます。(民訴法45条1項:”прокурор вправе обратиться в суд с заявлением в защиту прав, свобод и законных интересов граждан, неопределенного круга лиц или интересов Российской Федерации, субъектов Российской Федерации, муниципальных образований. Заявление в защиту прав, свобод и законных интересов гражданина может быть подано прокурором только в случае, если гражданин по состоянию здоровья, возрасту, недееспособности и другим уважительным причинам не может сам обратиться в суд….”)
 但し、民訴法45条2項は、検察官に当事者と同様の訴訟追行の権限と責任を認めつつも、和解する権限や訴訟費用の支払義務はないとし、また、当事者の意思に反する請求の放棄にも一定の制限をかけています。

② 意見陳述のための参加
 検察官は、強制退去、職務復帰、生命・身体の侵害を理由とする損害賠償、その他、検察官に付与した権限を行使させるために本法とその他連邦法が定める場合には、検察官は訴訟に参加し、意見を述べるとされます。Прокурор вступает в процесс и дает заключение по делам о выселении, о восстановлении на работе, о возмещении вреда, причиненного жизни или здоровью, а также в иных случаях, предусмотренных настоящим “Кодексом” и другими федеральными “законами”, в целях осуществления возложенных на него полномочий.
 実務上は、検察官が提出した意見(書)は、当事者間の訴訟の結果にかなりの影響力を与えるますので、非常に重要となっています。

第4.訴訟手続
1.申立受理決定等
 原告は、民訴法131条(Форма и содержание искового заявления)に定める事項を訴状に記載し(特に、同条2項1)~8)等参照)、同132条(Документы, прилагаемые к исковому заявлению)が規定する副本・租税・委任状等の書類を添付して管轄裁判所に提出します。
 裁判所は、訴状到達から5日以内に上記各要件の具備と、不受理事由(民訴法134条:отказ в принятии искового заявления)、訴状返還事由(同135条: возращение искового заявления)に該当しないことを確認し、申立受理決定を行うこととなっています(同133条:”судья выносит определение о принятии заявления к производству”)。

2.送達・通知・呼出し等
 裁判所は、係属事件の当事者、証人、鑑定人、専門家、通訳人に対して、書留郵便で通知ないし呼出しを行い、記録が確保されている通信配達手段を用いて、電話ないし電報、ファクシミリ送信等により、名宛人に対して通知ないし呼出しを行うこととなっています。(民訴法113条: Судебные извещения и вызовы)
 もっとも、被告の住所地が不明である場合には、裁判所は知れている被告の最終の住所地において、所在不明であるとの情報が得られれば、審理に入ります。(民訴法119条:”при неизвестности места пребывания ответчика суд приступает к рассмотрению дела после поступления в суд сведений об этом с последнего известного места жительства ответчика”)。被告が所在不明の場合において、例えば、日本における公示送達のような制度はありません。
 他方で、裁判所は、住所地が不明な被告に代理人がいない時、その他連邦法が定め る場合には、弁護士を代理人として選任することになっているため(民訴法50条1項:суд назначает адвоката в качестве представителя в случае отсутствия представителя у ответчика, место жительства которого неизвестно, а также в других предусмотренных федеральным законом случаях.)、当該代理人が応訴していくことになります。また、当該代理人は、所在不明者から委任を受けなくても上級審に不服申立する権限も有しています。
 研究会参加者の経験からすれば、ロシアにおける送達は、日本ほど厳密にはやっていない模様です。電話やSNS等で通知する例も実務的にはあり得るようであり、裏を返せば、訴えられる被告の立場からすれば、訴訟提起すら知らないまま何時の間にか判決が下されてしまうリスクもあり得ることになります。

※本ウェブサイトで公開される内容は、あくまでロシア法研究会で交わされた議論の概略を報告したに過ぎません。掲載内容の正確性や事実の真実性を保証するものではございませんので、ご理解いただきたくお願い申し上げます。