サンクトペテルブルク国立大学(Санкт-Петербургский государственный университет、略称「СПбГУ」)は、ロシア・サンクトペテルブルクにある公立の大学で、1724年、ピョートル大帝によって帝国科学アカデミー(現在のロシア科学アカデミー)として設立されたロシア最古の大学です。モスクワ国立大学と並ぶロシアの名門大学で、特に、法学教育ではモスクワ大学を凌ぐと言われており、現ロシア連邦司法大臣のアレクサンドル・コノヴァロフ様や、サンクト・リーガルフォーラムを作ったエレーナ・ボリセンコ様(ガスプロム銀行副会長、前司法副大臣)、また、ドミートリ―・メドベージェフ首相やウラディミール・プーチン大統領の出身校としても著名です。
大学内に入ると、サンクト・フォーラムに併せて、学生国際リーガルフォーラム( МЕЖДУНАРОДНЫЙ МОЛОДЁЖНЫЙ ЮРИДИЧЕСКИЙ ФОРУМ)が開催されており、その中で、日本法を勉強するロシア法学部生に対するセッションが設けられていました。(セッション名:Круглый стол “Права Японии”(円卓会議「日本法」))
その後、ペテルブルク大学の学生さんの方からも、3名の方が日本法に関する研究報告を行いました。発表内容は、①日本との比較におけるメディアの表現の自由(“Структура права на свободу слова в С редствах Массовой Информации в Японии: в сравнении с Россией”)(ロシア法学部生Алиса Кайденкоさんの研究発表)だったり、②日本のADRとしての国際調停(ロシア法学部生Яна АнтоноваさんとЕкатерина Петроваさんとの共同研究発表)だったり、③日本国憲法第9条(ロシア法学部生Анастасия Здроговаさんの研究発表)だったりと、何れも私たち日本人にとっても非常に難しいテーマばかりでしたが、それにも拘わらず、きちんと調査をして賛成・反対の意見を述べる学生さん達の能力の高さに、大変、驚かされました。
つづいて、中野由紀子事務次長からは、上記のサンクトペテルブルク国際リーガル・フォーラムについて補足させて頂き、①同フォーラムが、英米を中心とするアングロサクソン系の世界法曹協会(IBA)や旧フランス系諸国を中心とする世界弁護士連盟(UIA)と比肩するような、世界水準の法律家大会とすることを目指して創設されたと理解される設立経緯や、②世界各国の裁判官や弁護士など法律の研究者が参加したり、各国の弁護士会からも会長レベルが来ること、③同フォーラムはロシア政府が完全にバックアップして、毎年、開催される時には、内務省、外務省、法務省、連邦保安局などすべて受け入れ態勢を整えるようにとのロシア大統領令が出ること、その結果、④設立当初の2011年にはたった757人しか参加していなかったのに、2年目から2000人を超えて、2014年には3000人を超え、2017年からは4000人を突破、本年度は4500名、合計90ヵ国から参加するようになったこと等の報告がありました。
さらに、特筆すべきは、⑤本年度からPrivate Law prize、サンクトペテルブルク国際リーガルフォーラムの私法賞という賞を創設して、これを司法分野のノーベル賞にしたいという意気込みを持っているようであること、⑥審査委員は世界各国の著名な法学者研究者などで構成されており、日本からはお二人、中央大学の名誉教授でいらっしゃいます小島武司先生、それから川村明共同議長も審査委員会のメンバーに入っていること等をご報告させて頂きました。
なお,このロシア仲裁センターユジノサハリンスク支部開設及びセミナーについては地元のマスメディアでも,川村明会長の写真と共に川村明会長のあいさつ等が紹介されています。ご興味がある方は以下のリンクから参照してください。 2018年9月17日 Sakhalin.info В Южно-Сахалинске открылся офис дальневосточного отделения Российского арбитражного центра https://sakhalin.info/news/158262 2018年9月18日 Sakhalin Media Офис РАЦ открылся в Южно-Сахалинске
Арбитражное учреждение включает базу специалистов со всего Дальнего Востока и стран Азиатско-Тихоокеанского региона https://sakhalinmedia.ru/news/735988/
第1 ロシアの仲裁法の法源
まず、ロシア仲裁法の法源としては、以下のものとがあります。
1. ロシア国内仲裁法(О третейских судах в Российской Федерации:ロシア連邦法律2002年7月24日付第102-FZ号)(なお、下記3の立法により廃止・執行)
2. ロシア国際商事仲裁法(О международном коммерческом арбитраже:ロシア連邦法律1993年7月7日付第5338-1号)
3. ロシア仲裁法(Об арбитраже (третейском разбирательстве) в Российской Федерации:ロシア連邦法律2015年12月29日付第382-FZ号)
4. ロシア商事訴訟法典(Арбитражный процессуальный кодекс Российской Федерации:ロシア連邦法律2002年7月24日付第95-FZ号)
5. 外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(Нью-йоркская (1958 г.) Конвенция ООН о признании и приведении в исполнение иностранных арбитражных решений)
6. 国際商事仲裁に関する欧州条約(Европейская конвенция 1961 г. о внешнеторговом арбитраже)
7. 経済及び科学・技術協力関係から生ずる民事法紛争の仲裁による解決に関する条約(Московская конвенция о разрешении арбитражным путем гражданско-правовых споров, вытекающих из отношений экономического и научно-технического сотрудничества от 26 мая 1972 г.)
2. ロシアにおいて活動が認められている仲裁機関
現時点では、次の機関が常設仲裁機関としての機能を果たすことができる。
① ロシア連邦商工会議所海上仲裁委員会(法律の規定に基づく)
② ロシア連邦商工会議所国際商事仲裁裁判所(法律の規定に基づく)
③ 独自非営利団体「ロシア近代仲裁協会」のロシア仲裁センター(ロシア連邦政府の指令(2017年4月27日付の第798-p号)に基づく)
④ 全ロシア公共機関の「中小企業仲裁裁判所」の仲裁センター(ロシア連邦政府の指令(2017年4月27日付の第798-p号)に基づく)
【参考URL】
http://minjust.ru/ru/deyatelnost-v-sfere-treteyskogo-razbiratelstva/deponirovannye-pravila-arbitrazha
(2) 仲裁合意の有効性の判断機関
仲裁合意の存否及び有効性は、当該仲裁裁判所(すなわち、仲裁廷)又は商事裁判所によって判断されます(ロシア仲裁法第16条第1項)。
他方で、ロシア連邦商事訴訟法典の第233条第3項第2号によれば、ロシアの商事裁判所は、仲裁裁判所が下した仲裁判断を取り消す権限を有しますが、その取消事由の一つとして、「仲裁裁判所が紛争を解決した根拠であった仲裁合意が、当事者が選択した法律(かかる選択がなかった場合は、ロシア連邦の法律)により無効である場合(третейское соглашение, на основании которого спор был разрешен третейским судом, недействительно по праву, которому стороны его подчинили, а при отсутствии такого указания – по праву Российской Федерации)」を規定しています。
5. ロシア連邦において仲裁が可能な紛争
ロシア連邦において仲裁が可能な紛争(事件)であるか否かについては、以下の3つのカテゴリーに分けて考える必要があります。
(1) 完全に仲裁が可能な紛争(第1カテゴリー)
(2) 完全に仲裁が不可能な紛争(第2カテゴリー)
に規定された紛争である。仲裁不可能な事件の例としては、公共的な要素を含む紛争、破産事件、国家登録に関する事件、知的財産権事件、株主総会招集、その他コーポレート紛争のうちの大多数のもの(ロシア連邦商事訴訟法典第33条第2項)、また、家族の身分関係、労働関係、相続関係、国家調達、生命・健康被害、立退、環境等から発生した紛争(ロシア連邦民事訴訟法典の第22.1条第2項)は、仲裁をすることはできないことになっております。
(3) 条件付きで仲裁が可能とされている紛争(第3カテゴリー)
これには、2015年のロシア仲裁法の改正により新たに導入された「コーポレート紛争にかかる仲裁」の対象となる、コーポレート内部紛争が該当します。
コーポレート紛争の法的定義は、ロシア連邦商事訴訟法典第225.1条において定められており、法人設立、法人経営又は法人への参加に関連する紛争であり、同条においては、コーポレート紛争としての個々の紛争類型、例えば、ロシア法人の株式や持分の所有に関する紛争、法人の経営(企業契約から発生する紛争を含む。)に関する法人の参加者間の合意から発生する紛争、法人の参加者の総会の招集に関する紛争等についての包括的なリストも規定されています。
コーポレート紛争については、これを仲裁で審理するためには次の要件を満たさなければなりません。
① 仲裁合意に関する要件
(i) 当該合意は、法人のすべての参加者(出資者)、法人、及び仲裁手続に当事者又は第三者として参加するその他のすべての人の間で締結されなければならない。
(ii) 当該合意は独立した書類として締結することができ、参加者(出資者)のその他の合意(企業契約や法人の定款、但し、株主1000人以上の株式会社や公共株式会社は除く。)において仲裁条項として規定することができる。
② 仲裁地に関する要件
「一定の条件の下で仲裁審理が可能となるコーポレート紛争」の仲裁地は、ロシア連邦のみとする。
③ コーポレート紛争の仲裁規則に関する要件
常設仲裁機関は、コーポレート紛争の仲裁規則を制定した上で、ロシア連邦法務省に預託し、かつ、仲裁機関の公式ウェブサイトに掲示しなければならない。
Статья 22. Подведомственность гражданских дел судам 1. Суды рассматривают и разрешают 1) исковые дела с участием граждан, организаций, органов государственной власти, органов местного самоуправления о защите нарушенных или оспариваемых прав, свобод и законных интересов, по спорам, возникающим из гражданских, семейных, трудовых, жилищных, земельных, экологических и иных правоотношений; (要訳) 第22条 民事事件の裁判管轄 1.裁判所が審理・判決するのは、次のとおり、 1)民事・家事・労働・住居・土地・環境・その他の権利関係から生じて紛争になっている、侵害され又は紛争となっている権利・自由・法的利益の保護に関して、個人・法人・国家、地方自治体が当事者となる争訟事件
以上のとおり民事訴訟の審理対象が規定されています。 第22条1項は、上記の1)以下においても、例えば、2) дела по указанным в статье 122 настоящего Кодекса требованиям, разрешаемые в порядке приказного производства(本法122条の規定により、命令手続の規定において審理される事件)や、6) дела о признании и приведении в исполнение решений иностранных судов и иностранных арбитражных решений(外国判決の承認・執行に関する事件)についても審理・判決することが規定されます。 また、第22条2項は、“Суды рассматривают и разрешают дела с участием иностранных граждан, лиц без гражданства, иностранных организаций, организаций с иностранными инвестициями, международных организаций”と規定して、外国人・無国籍者・外国法人・外国資本の法人・国際機関を当事者とする訴訟も一般的に審理対象となることを規定しますが、第3項では但書で“...за исключением экономических споров и других дел, отнесенных федеральным конституционным законом и федеральным законом к ведению арбитражных судов”と規定して、連邦憲法や連邦法に関係して商事裁判所の管轄に属する経済的紛争その他の事件は除かれる、として除外しています。
3.商事訴訟法(補足) そして、上記における「商事裁判所の管轄に属する経済的紛争」として、ロシア連邦商事訴訟法(以下「商訴法」という。)第27条1項は、「経済的紛争、企業活動、その他の経済活動の遂行と関連するその他の事件は商事裁判所の管轄に属する。」(=“Арбитражному суду подведомственны дела по экономическим спорам и другие дела, связанные с осуществлением предпринимательской и иной экономической деятельности.”)ことを規定して、経済的紛争が商事裁判所の管轄に属することを明言しています。
さらに、同2項では、商事裁判所は、法人や、法人格はないが事業活動を行う個人事業者が参加する場合、さらに、ロシア連邦・構成主体・州組織・地方組織等が参加する場合においても、経済的紛争であればこれを審理判決することを明記しています(=“Арбитражные суды разрешают экономические споры и рассматривают иные дела с участием организаций, являющихся юридическими лицами, граждан, осуществляющих предпринимательскую деятельность без образования юридического лица и имеющих статус индивидуального предпринимателя, приобретенный в установленном законом порядке……(略)….., а в случаях, предусмотренных настоящим Кодексом и иными федеральными законами, с участием Российской Федерации, субъектов Российской Федерации, …..(略)…..”)。 他方、商訴法において、日系企業を含む外国企業にとって非常に重要となるのが、同法247条である。同条1項は、経済的紛争や他の事項について、事業活動ないし他の経済的活動を行う者に関して、海外企業、国際組織、外国人、無国籍者が参加する場合には、続いて列挙される1)~10)に該当する場合には、商事裁判所が審理判決することを規定しています。(“Арбитражные суды в Российской Федерации рассматривают дела по экономическим спорам и другие дела, связанные с осуществлением предпринимательской и иной экономической деятельности, с участием иностранных организаций, международных организаций, иностранных граждан, лиц без гражданства, осуществляющих предпринимательскую и иную экономическую деятельность (далее – иностранные лица), в случае, если:”) この1)~10)には、例えば、
1)被告がロシア連邦の領域に所在ないし居住している場合、あるいは、ロシア連邦の領土内に財産が損賠する場合(=“ответчик находится или проживает на территории Российской Федерации либо на территории Российской Федерации находится имущество ответчика; ”)、
2)前記の外国企業等の管理組織、支店、又は代表機関がロシア連邦の領土内にいること(=“2орган управления, филиал или представительство иностранного лица находится на территории Российской Федерации;”)、
3)ロシア連邦の領土内で履行される又は履行された契約から発生した紛争であるとき(=“ спор возник из договора, по которому исполнение должно иметь место или имело место на территории Российской Федерации;”)、
などが具体例として挙げられています。
4.裁判管轄判断の困難性 ところで、ある事件が、通常裁判所の裁判管轄に属するか、商事裁判所の裁判管轄に属するかという問題については、実務上は、非常に難しい問題を生じさせます。例えば、モスクワ市商事裁判所が誤った内容の決定を行ったとするリーディングケースとして、次の事例が挙げられます(Гражданское Процессуальное Право Под Ред Р.А.Курбанова, В.А.Гуреева Проспект 69ページ)。 こちらは、有限責任会社の社員権を有する母親が死去し、その相続分7.63%の社員権を相続した原告が、当該有限会社及びその社員を被告として、社員権確認請求訴訟を商事裁判所に提起した事件です。 モスクワ市商事裁判所は、本件請求が、民法、家族法の相続権を根拠とする請求であり、相続に関連する事件であるから、商事裁判所の裁判管轄には属さない旨判示し、終結決定(определение о прекращении производства)をしました(Определение от 13 августа 2014 г. по делу № А40-54737/2014)。 原告が第一審判決を不服として控訴したところ、第9控訴商事裁判所は、要約しますと『会社、他の社員が原告を社員として認めることを拒絶したことにより提起された本件訴訟は、会社法により規律されるものであり、相続法により規律されるものではない。従って、本件の判決は相続に関する審理をするのではなく、相続人の請求を拒否した他の社員の行為が連邦法「有限会社法」に合致するか、会社の定款に合致するか否かという問題である旨』判示して、原判決を取り消し、差し戻しました。 なお、この事件はその後の審理において最終的には請求棄却(実体判断)の判決がなされましたが、裁判管轄の判断には困難が伴うことを表しています。 日本人法律家の感覚からすると原告被告の主張がそれぞれ出揃い、裁判準備期日における争点整理がある程度進行しないと適法な管轄権が判別し得ないものと思われます。管轄権の誤りは消滅時効の進行を中断させず権利消滅させる危険があるばかりか、時効消滅しなくても関係者に莫大な人的・物的資源を消耗させますので、そのような観点からも、未だに大きな問題が残されていると思われます。
第1.諸原則 1.弁論主義(принцип состязательноти) ロシア連邦憲法(以下「憲法」という。)第123条3項は、「訴訟手続は弁論主義と当事者の平等の原則に基づいて行われる」(”Судопроизводство осуществляется на основе состязательности и равноправия сторон.”)ことを規定し、当事者の弁論主義(принцип состязательноти)を原則とします。 立証責任(Обязанность доказывания)において、ロシア民事訴訟法(以下「民訴法」という。)56条1項も当事者が請求や抗弁の基礎事実を立証しなければならないと規定されますが(”Каждая сторона должна доказать те обстоятельства, на которые она ссылается как на основания своих требований и возражений…”)、他方で、同条2項は、立証責任の分配を判断するのは裁判所であり、当事者が主張していない事実も争点とすることができるとする点で(Суд определяет, какие обстоятельства имеют значение для дела, какой стороне надлежит их доказывать, выносит обстоятельства на обсуждение, даже если стороны на какие-либо из них не ссылались)、かなり職権的な手続運用が認められている点に留意する必要があります。
2.処分権主義(принцип диспозитивнсти) ロシア民訴法も、当事者に訴えを提起する権限(民訴法3条)の他、訴えの変更、請求の放棄、請求の認諾、裁判上の和解(Изменение иска, отказ от иска, признание иска, мировое соглашение)をする権限を規定しており(民訴法39条1項)、日本国における処分権主義と同様の原則をとっていると考えらます。 他方で、訴えの取り下げに相当する制度が見当たらないようです。
3.口頭主義(принцип устности) ロシア民訴法でも口頭主義が採用されており(民訴法157条2項)、口頭主義(や直接主義)が採用されています(”Разбирательство дела происходит устно и при неизменном составе судей.”)。 日本の民事法廷では、準備書面等を予め裁判所と相手方に提出して、期日当日は「陳述します。」と述べるのが一般的な実務運用となっていますが、ロシアの場合は、冒頭から裁判所・当事者・代理人等が書面を見ることなく、もっぱら口頭により、事実上・法律上の争点に関して審理を進めるのが実務となっています。 もっとも、ロシア民訴法で定められている訴訟行為、例えば、訴え提起等については訴状を書面(又は電子的形態)で提出しなければならず、一定の範囲で書面主義も採用されています(民訴法3条1項の1)。
第2.検察官(прокурор)の役割 ソビエト連邦時代には、民事事件についても裁判所を監督する機能を有するとされて、検察官に広範な権限が認められていました。 現行の連邦憲法においては裁判官の独立が規定されており(連邦憲法120条:”Судьи независимы и подчиняются только Конституции Российской Федерации и федеральному закону.”)、検察官に上記の監督機能はなくなっていますが、それでも現行民訴法は、次の場合には民事訴訟への参加を認めています。
① 法定訴訟担当と類似の参加方式 ロシア検察官は、①不特定の範囲の者の権利、自由、法律上の利益の保護のため、また、②ロシア連邦、連邦構成主体、地方自治体の利益のために訴訟提起をすることができる。③個人が健康、年齢等のやむを得ない理由により、自ら訴訟を提起することが困難な場合に、その者の権利、自由、法律上の利益を求める場合にも検察官は訴訟提起できます。(民訴法45条1項:”прокурор вправе обратиться в суд с заявлением в защиту прав, свобод и законных интересов граждан, неопределенного круга лиц или интересов Российской Федерации, субъектов Российской Федерации, муниципальных образований. Заявление в защиту прав, свобод и законных интересов гражданина может быть подано прокурором только в случае, если гражданин по состоянию здоровья, возрасту, недееспособности и другим уважительным причинам не может сам обратиться в суд….”) 但し、民訴法45条2項は、検察官に当事者と同様の訴訟追行の権限と責任を認めつつも、和解する権限や訴訟費用の支払義務はないとし、また、当事者の意思に反する請求の放棄にも一定の制限をかけています。
② 意見陳述のための参加 検察官は、強制退去、職務復帰、生命・身体の侵害を理由とする損害賠償、その他、検察官に付与した権限を行使させるために本法とその他連邦法が定める場合には、検察官は訴訟に参加し、意見を述べるとされます。Прокурор вступает в процесс и дает заключение по делам о выселении, о восстановлении на работе, о возмещении вреда, причиненного жизни или здоровью, а также в иных случаях, предусмотренных настоящим “Кодексом” и другими федеральными “законами”, в целях осуществления возложенных на него полномочий. 実務上は、検察官が提出した意見(書)は、当事者間の訴訟の結果にかなりの影響力を与えるますので、非常に重要となっています。
第4.訴訟手続 1.申立受理決定等 原告は、民訴法131条(Форма и содержание искового заявления)に定める事項を訴状に記載し(特に、同条2項1)~8)等参照)、同132条(Документы, прилагаемые к исковому заявлению)が規定する副本・租税・委任状等の書類を添付して管轄裁判所に提出します。 裁判所は、訴状到達から5日以内に上記各要件の具備と、不受理事由(民訴法134条:отказ в принятии искового заявления)、訴状返還事由(同135条: возращение искового заявления)に該当しないことを確認し、申立受理決定を行うこととなっています(同133条:”судья выносит определение о принятии заявления к производству”)。
2.送達・通知・呼出し等 裁判所は、係属事件の当事者、証人、鑑定人、専門家、通訳人に対して、書留郵便で通知ないし呼出しを行い、記録が確保されている通信配達手段を用いて、電話ないし電報、ファクシミリ送信等により、名宛人に対して通知ないし呼出しを行うこととなっています。(民訴法113条: Судебные извещения и вызовы) もっとも、被告の住所地が不明である場合には、裁判所は知れている被告の最終の住所地において、所在不明であるとの情報が得られれば、審理に入ります。(民訴法119条:”при неизвестности места пребывания ответчика суд приступает к рассмотрению дела после поступления в суд сведений об этом с последнего известного места жительства ответчика”)。被告が所在不明の場合において、例えば、日本における公示送達のような制度はありません。 他方で、裁判所は、住所地が不明な被告に代理人がいない時、その他連邦法が定め る場合には、弁護士を代理人として選任することになっているため(民訴法50条1項:суд назначает адвоката в качестве представителя в случае отсутствия представителя у ответчика, место жительства которого неизвестно, а также в других предусмотренных федеральным законом случаях.)、当該代理人が応訴していくことになります。また、当該代理人は、所在不明者から委任を受けなくても上級審に不服申立する権限も有しています。 研究会参加者の経験からすれば、ロシアにおける送達は、日本ほど厳密にはやっていない模様です。電話やSNS等で通知する例も実務的にはあり得るようであり、裏を返せば、訴えられる被告の立場からすれば、訴訟提起すら知らないまま何時の間にか判決が下されてしまうリスクもあり得ることになります。