2018年9月17日

ロシア国際仲裁所(Russian Arbitration Center)ユジノサハリンスク支所開設記念セミナー出席報告
             ご報告:
弁護士 長 友 隆 典 

2018年9月17日現地時間午後2時からで新たロシア仲裁センター(Russian Arbitration Center)ユジノサハリンスク支所(Арбитражное учреждение в Южно-Сахалинске)がロシアサハリン州ユジノサハリンスクで開設されたことを記念しまして,記念セミナーが開催されました。この記念セミナーには,日露法律家協会から川村明会長,田中幹夫弁護士及び長友隆典弁護士が出席しましたので,以下のとおり報告いたします。

2018年9月16日深夜,川村明会長及び長友がユジノサハリンスク空港に到着しました。ユジノサハリンスク空港では,ロシア仲裁センターのアンドレイ・ゴルレンコ所長(Andrey Gorlenko)とサハリン州弁護士会所属のイワン・ショカレフ弁護士(Ivan Shokarev)が出迎えに来て頂きました。当日は深夜ということもあり,そのままホテルに移動し,翌日の記念セミナーに備えました。

翌日17日は午前11時に先にユジノサハリンスクに到着していた田中弁護士と合流し,ショカレフ弁護士の事務所に所属する弁護士にユジノサハリンスク市内を案内していただき,その後,記念セミナー会場であるユジノサハリンスクの中心部にある日本総領事なども入居する「北海道センタービル」付属の会場に移動しました(下記写真、中央は長友隆典事務次長)。

《ユジノサハリンスクの『北海道センタービル』と長友隆典事務次長》

会場では既にセミナーの準備整っており,ロシア仲裁センターからはゴルレンコ所長のみでなく,ウラジオストク支部エレナ・イスマジロバ氏及びカムチャッカ支部からアンナ・キセレバ氏も応援に来ており,ロシア仲裁センターの力の入れ方が伝わりました。サハリン州の弁護士も30人ほどが参加し,小規模な弁護士会であるにも関わらず関心の高さがうかがわれました。

《アンドレイ・ゴルレンコ・ロシア仲裁協会代表(左)と当協会議長の川村明弁護士(右)》

開会冒頭のゴルレンコ所長及びサハリン弁護士会マキシム・ベリャニン会長(Maxim Belyanin)の挨拶に引き続き,来賓でもある川村明会長が日本仲裁人協会の理事長として挨拶を行いました。ゴルレンコ所長からはロシアにおける仲裁所の重要性が高まってきていること,サハリンを含む極東地域においても仲裁所はロシア国内紛争のみならず日本や周辺国との法的紛争の解決に約立つことが丁寧に説明されました。川村明会長からのご挨拶の要旨は以下のとおりです。

ロシア仲裁センターユジノサハリンスク支所の開設,おめでとうございます。
日本仲裁人協会も,今年国際紛争解決センターを大阪に,そして,国際調停センターを京都に開設しました。更に,来年度には最新の国際仲裁センターを東京に開設する準備を進めています。
今や,小さな宗谷海峡を挟んで, サハリンと日本の両岸に,新しい国際商事紛争解決センターが発足するわけです。これは歴史的な出来事だと言わなければなりません。
ロシアのプーチン大統領と日本の安倍総理がウラジオストクで会談し,極東地域の経済開発のための両国の協力関係の強化を,改めて確認しあったということであります。ロシアと日本の経済協力の発展と平和な交流を推進するためには,国境を越えた法的紛争解決のシステム,国際仲裁の整備が不可欠です。私は,ロシア仲裁センターと日本仲裁人協会が協力して,極東・アジア地域の皆様に最適の紛争解決システムを提供できるようにならなければならないと考えます。
そのためにも,私は,この機会をお借りして,競合よりも協調,孤立よりも共同を呼びかけたいと思います。
改めまして,ロシア仲裁センターユジノサハリンスク支所の開設,おめでとうございます。ボリショエ・スパシーバ!

続いて,田中弁護士から国際間の裁判における執行の問題について,長友弁護士からは北海道とサハリン経済における仲裁の重要性について基調講演が行われました。

《記念セミナーではアンドレイ・ゴーレンコ・ロシア仲裁協会代表(最右)からご挨拶があり、その後、田中幹夫弁護士(最左)からもご発表がありました》

ロシア側からもペヴゼンコ・ロマン氏(Bevzenko Roman)及びスミルノワ・エカテリーナ氏(Ekaterina Smirnova)から仲裁所の重要性等について講演があり,これらに対して,サハリン州弁護士からも活発な質問がなされ,かなり充実した本格的なセミナーとなりました。さらに,このセミナーと合わせて,ロシア仲裁センターの上部組織であるロシア現代仲裁機関とサハリン州政府の友好協定締結についての署名式も行われました。

《記念セミナーが終了した直後の様子~очень теплая и дружественная атмосфера~》

なお,このロシア仲裁センターユジノサハリンスク支部開設及びセミナーについては地元のマスメディアでも,川村明会長の写真と共に川村明会長のあいさつ等が紹介されています。ご興味がある方は以下のリンクから参照してください。
2018年9月17日 Sakhalin.info
В Южно-Сахалинске открылся офис дальневосточного отделения Российского арбитражного центра
https://sakhalin.info/news/158262
2018年9月18日 Sakhalin Media
Офис РАЦ открылся в Южно-Сахалинске
Арбитражное учреждение включает базу специалистов со всего Дальнего Востока и стран Азиатско-Тихоокеанского региона
https://sakhalinmedia.ru/news/735988/

記念セミナーも無事に終了し,その後ユジノサハリンスク市内にある日本料理店「豊原」で懇親会が開催されました。ここのオーナーである一関権路氏は北海道出身の方で,長年ユジノサハリンスクの地に根をはってレストランを営業しており,現在ではレストランだけではなく水産物の流通なども行ない,地元のロシア人とも交流が深い人物です。料理も,サハリン産の食材を使った本格的な日本料理からロシア風にアレンジされたものが提供され,参加者皆が満足した懇親会となりました。

《記念セミナーの後は、ロシア側から祝賀会にて心温かい歓迎を受けました。誠に有り難うございます。》

翌日は,サハリン時間午後12時半(日本時間午前10時半)から,インターネット中継を活用した東京とサハリンの二元的ロシア法研究会が開催されました。ロシア側からは特別参加として,ガリレンコ所長とショカレフ弁護士が参加した。宍戸弁護士による日本からの発表に引き続き,ガリレンコ氏からも昨日のセミナーやロシア仲裁制度等について発表を頂きましたが,このようにロシア法勉強会もインターネットを用いてロシア弁護士等と一緒にやることも意義があると感じた次第でした。

ロシア法研究会の後は,川村明会長と長友でショカレフ氏の事務所やサハリン州弁護士会を訪問するなどして,飛行機の時間までユジノサハリンスクを楽しみました。飛行機の出発はサハリン時間の午後9時でしたが,その時間までショカレフ弁護士が同行して頂くとともに,空港での貴賓室の手配などを行ってくれるなど快適な時間を過ごすことができました。

《ユジノサハリンスクのレーニン像の前で記念撮影:川村明議長(中央)、田中幹夫会員(左)、長友隆典事務次長(右)》

このような短期間の行程でしたが,ロシア仲裁センターが極東地域にまで支所を複数開設し,紛争解決の主体となるように働きかけていることの背景には,ロシア国内では膨大な訴訟が提起されており裁判所だけでは処理できないという事情や日本その他の周辺国との紛争解決主体として裁判所が事実上役に立たないという事情があるのではないかと思われます。一方で,ロシアに設立された仲裁所はあくまでロシア法により設立されたものですから,ロシア国内の規制や制度の枠内で運用されるものであることに注意が必要かと思います。
したがって,真に日本国内企業にとって有益な仲裁所を目指すのであれば,日本法を準拠法とした上で同様の国際仲裁所を日本国内の東京や主要都市のみではなく地方においても設立することも検討に値すると思われます。
また,北海道弁護士会連合会ではサハリン州と友好協定を締結し,20年以上も交流を深めてきましたが,これを機会に日露法律家協会の会員もサハリンの弁護士等との交流を進めるきっかけになることを願っております。

最後に,川村明会長及び田中幹夫先生にはご出席のために時間をいただいたことに謝意を表するとともに,ガリレンコ所長及びショカレフサハリン州弁護士には多大なる便宜をはかってもらったことに心からの感謝を表します(文責:長友隆典事務次長(弁護士))。

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