日本対外文化協会様の第162回研究会の講師を担当させて頂きました。
2018年11月12日、当協会の川村明議長、小川晶露事務局長、中野由紀子事務次長の3名にて東海大学の日本対外文化協会(ロシア語表記:Японская Ассоциация Культурных связей с зарубежными странами、英語表記:Japan Cultural Association)様を訪問させて頂き、『日ロ法律家協会の活動紹介と、近時、注目されるロシア連邦最高裁2017年1月30日決定』との演題にて、第162回研究会の講師を担当させて頂きました。
日本対外文化協会(略称・対文協)は、1966年に、故松前重義博士(前東海大学総長)によって創設された大変歴史ある国際友好団体になります。現在は、ロシア科学アカデミーとの間で「学術交流協定」を結んでいる他、モスクワ大学、サンクトペテルブルク大学との交流協定も結び、研修生の交換等も行うなど、日露友好のために積極的に活動されていらっしゃいます。今回の研究会は既に162回を数えるとのことであり、参加者や講演者の皆様も、元駐ロ日本大使様、新聞社様元ロシア局長、モスクワ大学や科学アカデミーの学長や教授の先生方などが参加していらっしゃる大変著名な研究会になります。
研究会では、冒頭で、当時、川村明議長が国際法曹協会(IBA)の会長をしていた頃である2011年に、ロシア連邦でサンクトペテルブルク・国際リーガルフォーラムを創立した経緯や、2017年にはアレクサンドル・コノヴァロフ・ロシア連邦司法大臣のお立会いの下、エレーナ・ボリセンコ氏(ロシア連邦前副大臣、現ガスプロム銀行副会長)と共同にて、当協会を設立した経緯等について報告されました。特に、ロシアでも、国際水準の『法の支配』を確立するために様々な努力が行われており、この『法の支配』を日露法律家で共有することが安倍総理が進める日露経済協力を推進する道であることを付言させて頂きました。
つづいて、中野由紀子事務次長からは、上記のサンクトペテルブルク国際リーガル・フォーラムについて補足させて頂き、①同フォーラムが、英米を中心とするアングロサクソン系の世界法曹協会(IBA)や旧フランス系諸国を中心とする世界弁護士連盟(UIA)と比肩するような、世界水準の法律家大会とすることを目指して創設されたと理解される設立経緯や、②世界各国の裁判官や弁護士など法律の研究者が参加したり、各国の弁護士会からも会長レベルが来ること、③同フォーラムはロシア政府が完全にバックアップして、毎年、開催される時には、内務省、外務省、法務省、連邦保安局などすべて受け入れ態勢を整えるようにとのロシア大統領令が出ること、その結果、④設立当初の2011年にはたった757人しか参加していなかったのに、2年目から2000人を超えて、2014年には3000人を超え、2017年からは4000人を突破、本年度は4500名、合計90ヵ国から参加するようになったこと等の報告がありました。
さらに、特筆すべきは、⑤本年度からPrivate Law prize、サンクトペテルブルク国際リーガルフォーラムの私法賞という賞を創設して、これを司法分野のノーベル賞にしたいという意気込みを持っているようであること、⑥審査委員は世界各国の著名な法学者研究者などで構成されており、日本からはお二人、中央大学の名誉教授でいらっしゃいます小島武司先生、それから川村明共同議長も審査委員会のメンバーに入っていること等をご報告させて頂きました。
引き続き、小川晶露事務局長の方から、本日の主題である、『近時、注目されるロシア連邦最高裁2017年1月30日決定』についてご報告させて頂きました。同最高裁決定の事案であるマルゴ水産事件につきましては、当協会の記念すべき第1回研究会のテーマでもありましたので、詳しくは、同研究会の報告をご参照下さいませ。
概略につきましてご報告させて頂きますと、この事案では、日本国の札幌地方裁判所稚内支部がロシア国ティナール社に対して命じた4億円余りの支払いを内容とする確定判決が、ロシア国の裁判所において、どのように取り扱われるかが注目されました。
ロシア国の第一審(州地方)、第二審(管区控訴審)の各裁判所は、外国仲裁判断の承認・執行に関する国際条約であるいわゆるニューヨーク条約を根拠に、ロシア商事手続法第241条の要件である『国際条約』があるとして、外国(=日本国)判決のロシア国内での承認と執行を認めました。
そして、ロシア連邦最高裁判所2017年1月30日決定においても、(上記の下級審とは異なりますが)ロシアはヨーロッパ人権条約という『国際条約』に加盟しているとして、やはり、ロシア商事手続法第241条の適用を認め、上記の稚内の裁判所が出した約4億円の支払いを命じる日本国判決について、ロシア国内での承認と執行を認めました。
上記のロシア連邦最高裁決定は、①下級審(第一審、第二審)の判断において仲裁と裁判を区別しない誤りを正面から認め、これを是正したものであること、②外国判決である日本国の判決も、国際条約ないし国際礼譲等を理由に、自国での承認執行を認めたこと、以上①②の各点において、ロシア国の内外における『法の支配』の実現に寄与する重要な意義を有すると言えるでしょう。
さらに、③ロシア国裁判所が、外国である日本国裁判所判決の承認・執行を認めたということは〔アウトバウンド〕、日本国は相互主義をとっていますので(日本国民事訴訟法118条)、今後は、ロシア国裁判所の判決に対して、日本国裁判所が日本国内での承認執行を認める可能性が出てきた点において〔インバウンド〕、非常に注目すべき最高裁決定ということが出来ます。(詳しくは、当協会の第1回研究会報告をご参照いただけますと深甚です。)
※なお、本ウェブサイトで公開される内容は、あくまでロシア法研究会で交わされた議論の概略を報告したに過ぎません。掲載内容の正確性や事実の真実性を保証するものではございませんので、ご理解いただきたくお願い申し上げます。
当協会は、この度、日本対外文化協会さまの研究会に初めて参加させて頂きまして、研究会が長い歴史と伝統を有するものであること、そして、ロシアに関わりのある経験豊かな方が、大変多く参加されていることを知りました。
また、研究会での発表にあたり、日本対外文化協会の渡邉さま、工藤さま、田牧さま、その他、多くの皆様に大変お世話になりました。つつしんで御礼申し上げます。
私ども日露法律家協会では、今後も、日本とロシアの法律家が互いに協力し合いながら、日露交流と国境を越えた『法の支配』の実現に努めて参りたいと存じます。今後とも引き続き、ご指導とご支援を賜りたく宜しくお願い申し上げます(文責:小川)。