2019年5月7日

第12回ロシア法研究会が開催されました。

今回のロシア法研究会のテーマは「ロシア連邦中央銀行概論」になります。講師は、サンクトペテルブルグ国立大学大学院(LL.M)を卒業され、モスクワの法律事務所で金融業務その他に従事された南純先生(弁護士法人中央総合法律事務所)をお迎えいたしました。南純先生から、以下のとおりご講義をいただきましたので、ご報告申し上げます。

1.ロシア連邦中央銀行の意義・役割等
 ロシア連邦中央銀行(Центральный банк Российской Федерации、以下「ロシア中央銀行」といいます。)は、日本でいうところの日本銀行に相当します。現在のロシア憲法75条は、ルーブル価の安定を第一の責務とする独立機関であると定めており、ルーブル紙幣・硬貨の発行権限を唯一有する機関になります。
しかしながら、ロシア中央銀行は、日本銀行に比べると相当に幅広い権限をもっており、単に通貨(ルーブル)発行権だけではなく、金融、証券、保険業務の全般を統括・監督し、日本国でいうと金融庁のような許認可権限を保有している機関になります。
 そのため、ロシア国で活動する銀行、保険会社等は、常に、ロシア中央銀行のことを意識しており、円滑な業務運営のために同銀行と適正且つ密接にかかわることが重要になります。この点、ロシア国に進出する日本の大手メガバンクや損害保険会社なども、常にロシア中央銀行を意識して活動するのが実務となっております。
 なお、1点だけですが、保険業務だけは、財務省の外郭団体である保険監督局が許認可権限を有しております。

 以下、ロシア中央銀行のウェブサイト(https://www.cbr.ru/today/)からの抜粋になります。

Статьей 75 Конституции Российской Федерации установлен особый конституционно-правовой статус Центрального банка Российской Федерации, определено его исключительное право на осуществление денежной эмиссии (часть 1) и в качестве основной функции — защита и обеспечение устойчивости рубля (часть 2). Статус, цели деятельности, функции и полномочия Банка России определяются также Федеральным законом 10 июля 2002 года № 86-ФЗ «О Центральном банке Российской Федерации (Банке России)» и другими федеральными законами.
В соответствии со статьей 3 Федерального закона «О Центральном банке Российской Федерации (Банке России)» целями деятельности Банка России являются: защита и обеспечение устойчивости рубля; развитие и укрепление банковской системы Российской Федерации; обеспечение стабильности и развитие национальной платежной системы; развитие финансового рынка Российской Федерации; обеспечение стабильности финансового рынка Российской Федерации.
Свидетельство о внесении записи в Единый государственный реестр юридических лиц в отношении Банка России
Свидетельство о постановке Банка России на учет в налоговом органе по месту нахождения на территории Российской Федерации
Согласно статье 34.1 Федерального закона «О Центральном банке Российской Федерации (Банке России)» основной целью денежно-кредитной политики Банка России является защита и обеспечение устойчивости рубля посредством поддержания ценовой стабильности. Устойчивость национальной валюты означает не фиксированный курс по отношению к другим валютам, а сохранение покупательной способности денег за счет стабильно низкой инфляции. В условиях низкой инфляции объем товаров и услуг, которые можно приобрести на одну и ту же сумму в рублях, существенно не изменяется в течение долгого времени. Это поддерживает уверенность населения и бизнеса в национальной валюте и формирует благоприятные условия для роста российской экономики.

2.ロシア中央銀行の歴史
 帝政ロシア時代には、アレクサンドル2世の命令で、民間銀行を所轄する財務省の機関としてロシア帝国国立銀行が設立されました。その後、ロシア革命により人民銀行になりましたが、内線の後にボリシェビキが勝利して(1921年)ソビエト連邦国立銀行が設立されました。
 ペレストロイカの後、ソビエト連邦が崩壊してロシア連邦になった後、現在のロシア中央銀行が設立されました。
 そして、金融機関を一つの機関が統合的に管理すべきとする世界的な潮流の中、一つ機関で管理した方が効率的・経済的であるとの考えから、2013年に「連邦金融市場庁」の機能がロシア中央銀行に移管されて、現在のロシア中央銀行となりました。

3.組織構成
 ロシア中央銀行の意思決定機関としては国家金融会議があります。ロシア銀行の総裁が最高執行機関と位置づけられ、それ補佐するのが、理事会になります。現在の総裁は、Набиуллина Эльвира Сахипзадовна氏、これに加えて理事が14名で構成されています。理事は、総裁の推薦を得てロシア下院議会で任命され、大統領が承認することになっています。

 理事会は各種政策を提案しますが、その構成は、国会議員や大統領が指名した人物が理事として選任されます(現在14名)。4半期に一度、開催されています。
 現在の総裁Набиуллина Эльвира Сахипзадовна氏が就任しており、政府に対して金融市場の基本方針・指針を提案、金融市場の発展政策の基本政策を提出、その他、ロシア経済市場も中央銀行独自に出しています。この点、ロシア政府の経済発展省が出しているものと異なったりもします。

 法律上は、ロシア銀行総裁は「唯一の執行機関」と規定され、責任能力もすべての責任はロシア中央銀行総裁が負うと書いてありますが、学者の見解としては中央銀行総裁の権威ないし強さを示したに過ぎないとの理解が一般的です。
総裁と理事会との関係はあまり明文がないため、毎回、総裁が変わると、人によって動き方も変わり、個人の裁量が大きいと言われます。

 なお、ロシア中央銀行は裁判主体にもなりますし、自ら訴訟を起こすこともあります。代理人になるのは、内部のインハウス・ロイヤーですが、日本のような庶務検事ではありません。この点、民間団体なのか、政府機関なのか、又、独立の意味をどう解釈するのか、という議論があります。

 ロシア中央銀行の各地方局、補助局には、6万9000人いるとされます。ソ連時代に当時の民間銀行を、すべて国営化しましが、それが、現在も残っていると言われます。

4.名称等
 読み方はたくさんありますが、ロシア連邦中央銀行(Центральный банк Российской Федерации)が正式名称となっております(憲法上、ホームページ)。英字表記ではCBRと記載されます。
 別名として「ロシア銀行」(банк России)がありますが(法律上、紙幣上等)、俗称としてセントラルバンク(Центробанк)なども口語や、新聞等で使用されたりします。
 また、バンク・ラッシーヤという民間銀行がありますが、こちらは別物で、一般の民間銀行となります。
 なお、日本のメガバンクに関しては、みずほ銀行が77位(700億ルーブル)、三菱UFJ銀行が83位で650億ルーブル、三井住友銀行が640億ルーブルで84位、最近SBIが80億ルーブルで210位となっています。〔banki.ru の2019年3月の総資産ランキングより〕
 日本の銀行とは異なり、ロシアの民間銀行は、倒産することも少なくないので、これらのランキングは非常に重要となっております。

5.法的地位
 株式の保有・売却は可能となっております。預金残高第1位のツベル銀行の過半数の株式を保有していますので、ツベル銀行は実質的に国営銀行ともいえます。
 ロシア銀行は利益を上げることを禁止されていませんが、利益の50%以下は連邦予算に編入されるとされています。
 ロシア中央銀行も日本でいう商人に該当しますが、判例はなく、学術的にも通説としては、利益を挙げることは禁止されないが、営利団体ではないとされます。

 憲法上、独立性が保証されていますが、他方で、ロシア中央銀行の資産は連邦政府に帰属するとされます。
 例えば、ロシア中央銀行が車をたくさん持っていますが、車の所有者が国に支払うべき徴収金を政府機関の公用車だから払う必要はないと訴訟を起こしたところ、中銀が敗訴しました(モスクワ管区連邦商事裁判所2013年8月21日判決)。車自体が政府目的に関連して使用されたとはいなかった、という具体的な事実に着目したものです。今後も、裁判所は具体的な側面に着目して、判断していくものと思料されます。

6.実務的問題
 実務的な問題として、ロシア中央銀国の職員に対する金銭の授受は賄賂にあたるのか、という点があります。公務員の収賄を取り締まる、刑法上の罪は、法的に民間企業であれば、適用外となりますが、明確な学説、判例はまだありません。
 なお、ロシア中央銀行の中で理事に該当するクラスの職員は、理事や取締役などの特別背任罪に相当する規定する罪に該当する可能性がでてきます。
宿泊・交通費(ロシアから、ちょっと日本に来てもらって、銀行の話をする等)は、理事にあたる人は刑法上の罪になる可能性ありますし、観光についても、催事の範囲であればよいが、例えば、さらに京都に行きましょう、日本の良いところを案内します、というのは金銭の接受にあたる可能性があります。
 交際費という観点では、贈呈品とか食事代などは、事案に応じて合理的範囲かどうかを判断する他ないが、1つの原則としては、企業間の贈与が3000ルーブルを超えるものが無効とされていますので(民法575条)、これが一つの目安となるでしょう。

7.まとめ
• ロシア連邦中央銀行は、日本銀行とは違い、金融行政に関して広汎な権限が与えられている。
• 最高意思決定機関は、監督機能も担う国家金融会議であるが、業務の大部分は、理事会及び下部機関により行われている。
• ロシア銀行総裁は、唯一の執行機関である。
• ロシア銀行は、政府機関と民間銀行の中間的存在であり、利益はだせるが営利団体ではない。

以上のとおり南純先生からご講義いただきました。南先生におかれましては、モスクワでの法律実務に従事されたご経験から貴重なお話をお聴かせ下さいまして、誠に有り難うございました。つつしんで御礼申し上げます。(文責小川)

※本ウェブサイトで公開される内容は、あくまでロシア法研究会で交わされた議論の概略を報告したに過ぎません。掲載内容の正確性や事実の真実性を保証するものではございませんので、ご理解いただきたくお願い申し上げます。

 

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です