2018年3月9日

第5回ロシア法研究会が開催されました。

第5回ロシア法研究会では、札幌弁護士会の平尾功二弁護士(房川・平尾法律事務所)をお迎えし、『ロシア民事訴訟法①』をテーマに、日本の民事訴訟法と比較しながら訴訟手続全般を概観しました。

第1.諸原則
1.弁論主義(принцип состязательноти)
 ロシア連邦憲法(以下「憲法」という。)第123条3項は、「訴訟手続は弁論主義と当事者の平等の原則に基づいて行われる」(”Судопроизводство осуществляется на основе состязательности и равноправия сторон.”)ことを規定し、当事者の弁論主義(принцип состязательноти)を原則とします。
 立証責任(Обязанность доказывания)において、ロシア民事訴訟法(以下「民訴法」という。)56条1項も当事者が請求や抗弁の基礎事実を立証しなければならないと規定されますが(”Каждая сторона должна доказать те обстоятельства, на которые она ссылается как на основания своих требований и возражений…”)、他方で、同条2項は、立証責任の分配を判断するのは裁判所であり、当事者が主張していない事実も争点とすることができるとする点で(Суд определяет, какие обстоятельства имеют значение для дела, какой стороне надлежит их доказывать, выносит обстоятельства на обсуждение, даже если стороны на какие-либо из них не ссылались)、かなり職権的な手続運用が認められている点に留意する必要があります。

2.処分権主義(принцип диспозитивнсти)
 ロシア民訴法も、当事者に訴えを提起する権限(民訴法3条)の他、訴えの変更、請求の放棄、請求の認諾、裁判上の和解(Изменение иска, отказ от иска, признание иска, мировое соглашение)をする権限を規定しており(民訴法39条1項)、日本国における処分権主義と同様の原則をとっていると考えらます。
 他方で、訴えの取り下げに相当する制度が見当たらないようです。

3.口頭主義(принцип устности)
 ロシア民訴法でも口頭主義が採用されており(民訴法157条2項)、口頭主義(や直接主義)が採用されています(”Разбирательство дела происходит устно и при неизменном составе судей.”)。
 日本の民事法廷では、準備書面等を予め裁判所と相手方に提出して、期日当日は「陳述します。」と述べるのが一般的な実務運用となっていますが、ロシアの場合は、冒頭から裁判所・当事者・代理人等が書面を見ることなく、もっぱら口頭により、事実上・法律上の争点に関して審理を進めるのが実務となっています。
 もっとも、ロシア民訴法で定められている訴訟行為、例えば、訴え提起等については訴状を書面(又は電子的形態)で提出しなければならず、一定の範囲で書面主義も採用されています(民訴法3条1項の1)。

第2.検察官(прокурор)の役割
 ソビエト連邦時代には、民事事件についても裁判所を監督する機能を有するとされて、検察官に広範な権限が認められていました。
 現行の連邦憲法においては裁判官の独立が規定されており(連邦憲法120条:”Судьи независимы и подчиняются только Конституции Российской Федерации и федеральному закону.”)、検察官に上記の監督機能はなくなっていますが、それでも現行民訴法は、次の場合には民事訴訟への参加を認めています。

① 法定訴訟担当と類似の参加方式
 ロシア検察官は、①不特定の範囲の者の権利、自由、法律上の利益の保護のため、また、②ロシア連邦、連邦構成主体、地方自治体の利益のために訴訟提起をすることができる。③個人が健康、年齢等のやむを得ない理由により、自ら訴訟を提起することが困難な場合に、その者の権利、自由、法律上の利益を求める場合にも検察官は訴訟提起できます。(民訴法45条1項:”прокурор вправе обратиться в суд с заявлением в защиту прав, свобод и законных интересов граждан, неопределенного круга лиц или интересов Российской Федерации, субъектов Российской Федерации, муниципальных образований. Заявление в защиту прав, свобод и законных интересов гражданина может быть подано прокурором только в случае, если гражданин по состоянию здоровья, возрасту, недееспособности и другим уважительным причинам не может сам обратиться в суд….”)
 但し、民訴法45条2項は、検察官に当事者と同様の訴訟追行の権限と責任を認めつつも、和解する権限や訴訟費用の支払義務はないとし、また、当事者の意思に反する請求の放棄にも一定の制限をかけています。

② 意見陳述のための参加
 検察官は、強制退去、職務復帰、生命・身体の侵害を理由とする損害賠償、その他、検察官に付与した権限を行使させるために本法とその他連邦法が定める場合には、検察官は訴訟に参加し、意見を述べるとされます。Прокурор вступает в процесс и дает заключение по делам о выселении, о восстановлении на работе, о возмещении вреда, причиненного жизни или здоровью, а также в иных случаях, предусмотренных настоящим “Кодексом” и другими федеральными “законами”, в целях осуществления возложенных на него полномочий.
 実務上は、検察官が提出した意見(書)は、当事者間の訴訟の結果にかなりの影響力を与えるますので、非常に重要となっています。

第4.訴訟手続
1.申立受理決定等
 原告は、民訴法131条(Форма и содержание искового заявления)に定める事項を訴状に記載し(特に、同条2項1)~8)等参照)、同132条(Документы, прилагаемые к исковому заявлению)が規定する副本・租税・委任状等の書類を添付して管轄裁判所に提出します。
 裁判所は、訴状到達から5日以内に上記各要件の具備と、不受理事由(民訴法134条:отказ в принятии искового заявления)、訴状返還事由(同135条: возращение искового заявления)に該当しないことを確認し、申立受理決定を行うこととなっています(同133条:”судья выносит определение о принятии заявления к производству”)。

2.送達・通知・呼出し等
 裁判所は、係属事件の当事者、証人、鑑定人、専門家、通訳人に対して、書留郵便で通知ないし呼出しを行い、記録が確保されている通信配達手段を用いて、電話ないし電報、ファクシミリ送信等により、名宛人に対して通知ないし呼出しを行うこととなっています。(民訴法113条: Судебные извещения и вызовы)
 もっとも、被告の住所地が不明である場合には、裁判所は知れている被告の最終の住所地において、所在不明であるとの情報が得られれば、審理に入ります。(民訴法119条:”при неизвестности места пребывания ответчика суд приступает к рассмотрению дела после поступления в суд сведений об этом с последнего известного места жительства ответчика”)。被告が所在不明の場合において、例えば、日本における公示送達のような制度はありません。
 他方で、裁判所は、住所地が不明な被告に代理人がいない時、その他連邦法が定め る場合には、弁護士を代理人として選任することになっているため(民訴法50条1項:суд назначает адвоката в качестве представителя в случае отсутствия представителя у ответчика, место жительства которого неизвестно, а также в других предусмотренных федеральным законом случаях.)、当該代理人が応訴していくことになります。また、当該代理人は、所在不明者から委任を受けなくても上級審に不服申立する権限も有しています。
 研究会参加者の経験からすれば、ロシアにおける送達は、日本ほど厳密にはやっていない模様です。電話やSNS等で通知する例も実務的にはあり得るようであり、裏を返せば、訴えられる被告の立場からすれば、訴訟提起すら知らないまま何時の間にか判決が下されてしまうリスクもあり得ることになります。

※本ウェブサイトで公開される内容は、あくまでロシア法研究会で交わされた議論の概略を報告したに過ぎません。掲載内容の正確性や事実の真実性を保証するものではございませんので、ご理解いただきたくお願い申し上げます。

 

 

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