カンファレンス「日本とロシアの模擬国際商事仲裁」がユジノサハリンスクで開催されました
令和元年10月31日、ロシア・ユジノサハリンスクのサハリン国立大学において、カンファレンス『日本とロシアの国際商事仲裁』が開催されました。
このイベントは、ロシア側はサハリン国立大学(Сахалинский государственный университет)(http://sakhgu.ru/)、ロシア仲裁センター(https://centerarbitr.ru/about/text/)、ロシア連邦司法省、サハリン弁護士会の4団体が協力して開催したものですが、日本側は当協会(日露法律家協会)がカウンターパートをつとめさせて頂きました。また、日本側からの参加者(大学院生・指導引率者・仲裁人役等)は、近時、日本政府の「国際仲裁の活性化に向けた基盤整備」政策を実現するための事業の一つとして、2018 年5 月にわが国初の国際仲裁・ADR 専用審問施設として開設された日本国際紛争解決センター(JIDRC)(http://idrc.jp/)から補助を受けて、正式に派遣されました。
会場には、上記4団体を中心に、大学教授、学生、ロシア弁護士、その他、合計約150名が参加したほか、ロシア側メディや日本側のメディア(NHK放送局)等も取材に来ていました。各メディア等からのリリース内容は、以下URLにありますので、ご参照ください。
NHK放送局-『日ロの学生 経済交流進む中 契約トラブルテーマに議論交わす』
サハリン地元メディア-『В Южно-Сахалинске прошла конференция “Международный коммерческий арбитраж в Японии и России”』
なお、翌日の円卓会議はロシア連邦司法省にも掲載されています―『А.В. Коновалов принял участие в круглом столе по подведению итогов конференции «Международный коммерческий арбитраж в России и Японии: национальный опыт и перспективы развития»』
カンファレンスの進行と内容は、以下のとおりになりますので、ご報告申し上げます。
第1.第1部
1.登壇者から挨拶
(登壇者:敬称略)
アンドレイ・ゴルレンコ(Andrey Gorlenko) ロシア仲裁センター代表
アレグ・フェドロフ(Oleg Fedorov) サハリン国立大学法学部学長
マキシム・ベリヤニン(Makisim Belyanin) サハリン弁護士会会長
川村明 弁護士、日本仲裁人協会会長、日露法律家協会議長(理事長)
久野和博 在ユジノサハリンスク日本総領事
2.基調講演―ロシア国際商事仲裁の概略と近時の改正:ゴーレンコ代表から、国際商事仲裁についての講演
(以下は、講演に使用されたスライドの概略のみ)
・ニューヨーク条約の枠組み
・近時のロシアの仲裁法の改正①
・近時のロシアの仲裁法の改正②
・仲裁手続の進行
・仲裁判断の執行
・ロシア仲裁センターについて
・ロシア仲裁センターでの取扱件数とデータ報告
第2.学生模擬仲裁
第1部に引き続きまして、第2部では、このカンファレンスの最大のイベントである日本とロシアの学生による模擬国際商事仲裁が開催されました。
日本とロシアの学生がすべてロシア語で模擬国際仲裁を行うことは、ロシア東西に関わらず史上初めてのことであり、歴史的な催事だったと思われます。
1.参加者〔以下、敬称略〕
①日本企業側―申立人代理人2名
柴田正義(名古屋大学大学院法学研究科ロシア法)
竹内大樹(神戸大学大学院法学研究科ロシア法)
②ロシア企業側―相手方代理人3名
③仲裁人役
アンドレイ・ゴーレンコ(ロシア仲裁センター代表)
中野由紀子(弁護士、半蔵門法律事務所、日露法律家協会事務次長)
セルゲイ・ポノマレフ(弁護士、元検事正、ロシア地理学会サハリン州支部長)
2.仲裁事件の内容
日本企業とロシア企業の間で、ウニ取引に関する契約が締結されたが、ロシア企業から輸入されたウニが新鮮ではないため契約を解除すると日本企業が主張して提訴した事案。
論点としては、①仲裁条項の準拠法規定がない場合にどう解釈するか。②解除に関する紛争まで仲裁条項が想定していたといえるか、③仲裁人が日本企業側との間で過去に一定の関わりがあった場合に忌避事由とできるか、以上の3つの論点であり、仲裁条項や手続を中心とした論点で構成されました。
3.双方の主張など
日本側チーム、ロシア側チームは共に、それぞれ、自分達の主張を説明するためのプレゼンテーション資料を作成して本番に臨みました。
当事者の論理構成の中には、Contra Proferentemや忌避事由に関するIBA Guidelineのいわゆるオレンジ・リストが主張され、また、ロシア連邦憲法との関わりなどの予想外の反論も登場して、難易度は高かったと思います。
しかし、日本の学生2人は日本企業の代理人としてすべてロシア語で堂々と主張を展開し、ロシア学生3人もロシア企業代理人としてこれに反論し、さらに、仲裁人や当事者間でも質疑が交わされ、聴衆だけでなく取材に訪れたメディアからも撮影される等、会場は大いに盛り上がりました。
なお、右陪席仲裁人は、当協会事務次長の中野由紀子弁護士がつとめました(下記写真を参照)。
最後に3名の仲裁人から本日の模擬仲裁の講評と総括がなされましたが、いずれも、学生の努力と取組みを労うものであり、第2部の模擬国際仲裁は、当初の想定を遥かに上回る、大成功となりました。
日本企業の代理人役をつとめて下さった柴田正義さん、竹内大樹さん、本当に有り難うございました。
そして、本日のカンファレンスの総括とフィードバックは、翌日(11月1日)のアレクサンドル・コノヴァロフ大臣とのラウンド・ミーティングで行われました。そちらの記事も、何卒、ご参照ください。(文責小川)